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惑星異聞【白】 1-11

「って……おまえらがかよ?」
『ナニ考えてやがる、あのぬらりひょん』
 メイ・ロウと紹介された少女と、ディー・リーンと名乗った少年を見比べたシヴァは、心の中で諸悪の根元に向かって思いっきり毒づいた。
 おそらく10代前半だろう少年と、その少年が仮保護者だというやはり10代半ばあたりの迷子の少女。彼らの前に立っている自分の姿を客観的に想像すると、どう考えても子供のお守りを押しつけられたようにしか思えない。
 そして、そんなものを円満にこなせるような技術や適性をシヴァは持ちあわせていない。それはシヴァ自身も、そしてここにシヴァを派遣した上司もよく知っているはずなのだが、なぜこんなことになっているのか?
「はい、そうです。最初にデータはちゃんとお渡ししといたはずなんですけど……」
 ガラにもなくアレーンが企んでいるであろうことを突き詰めようと考え始めたシヴァの耳にトーンの高い少年の声が聞こえてきて、シヴァはふと我に返った。
「あ? 見てねぇよ、んなモン」
「……はあ、なるほど。噂に違わず豪快な方ですね」
 納得したかのように頷いて、ディー・リーンはひとつだけため息をつく。それを目にしたシヴァは、少しだけ彼の印象をプラス方向に修正した。送ったデータを見てもいないと告げられたことに気分を害した様子も見せず、ため息ひとつで済ませた依頼人は目の前にいる少年が初めてだったからだ。
 だから、直接聞いてみることにした。
「どーゆーウワサだそりゃ……で、えーと、ディーだったっけか?」
「リーンでお願いします。みんなそう呼びますから」
「んじゃ、リーン。なんで、迷子捜しの依頼先がウチなんだ?」
 そもそも迷子の身元探しなどという仕事が、なぜなんでも屋に等しいとはいえ軍情報部直属の組織なぞという物騒なところに回ってきたのか。八つ当たりが半分以上を占めるアレーンへの愚痴から転がり出てきた疑問ではあったが、私怨を別にしてもなにかがひっかかることには変わりがない。
 何かある。だからシヴァも、すぐに答えが返ってくるとは思っていなかったのが。
「ああ、それはですね」
 いきなりそんな疑問をぶつけられたリーンは、顔色ひとつ変えずにあっさりと言葉を継いだ。
「まず第一に、迷子のメイ本人に記憶がないんです。第二に、記憶喪失の可能性があるということで病院にいたこともあるんですが、諸般の事情ってやつですか? そのせいで、そこでメイの記憶が戻るまでのんびりもしてられなくなりまして」
「はァ?」
「とりあえず、こんな人が多いところで、しかも立って済ます話じゃないですよね。まあ、そういうあまり大きな声じゃ言えない事情があるんです。でもあなたに説明しないワケにもいきませんよね、というわけで。シヴァさん、移動しません?」
 噴水にじゃれついてびしょびしょになっているメイにタオルを渡しながら、リーンはまるで天気の話でもするかのようにあっさりとそう告げると、とどめのように笑顔を見せる。反対する理由もなく惰性で頷いたシヴァは、頷いてからふと記憶の片隅になにかがひっかかったことに気づいた。
「おい」
「はい?」
「おまえ、どっかで会ったことなかったか?」
 先刻の笑顔、どこかで見たことがあるような気がする。気がするだけで確信はまったくなかったし、大体いつどこで見たのかすら覚えてないが、記憶にひっかかったことだけは確かだった。
「いえ、僕には覚えがないですけど」
 だが不思議そうに目を瞬かせてから首を傾げて考えるそぶりは見せたものの、リーンは首を振る。まったく確信もなかったから、シヴァもあっさりとそれで納得した。
「……そーか? んじゃ、勘違いだな」
「そうでしょうね、きっと。ああ、それに」
 それでこの話題は終わりだと思ったのに。なにが面白いのかにこにこと邪気のない笑顔になって、リーンがぽんと手を打つ。
「世の中、同じ顔を持っている人は3人いるって言いますからね。自分と同じ顔の人を見ると命がない、とも言いますけど。シヴァさんは会ってみたかったりします?」
「ンなワケねぇだろ!」
 その反応こそがあまり思い出したくない銀髪の狸上司に似ている気がして、シヴァはあれこれ考えることを放棄した。
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