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惑星異聞【白】 1-9

 サハスという通称で知られているフォレスティの第一街区には、待ち合わせ場所としてよく使われている市街公園の中央広場がある。中央広場とはいっても噴水があるだけでさほど広い場所でも目立つ場所でもなかったが、環境柄なのかお気楽な気質を持っていることが多いフォレスティの住人たちにとっては十分集まりやすい場所となっていた。
 そんな穏やかな昼下がりの噴水横に、どうにもそんな雰囲気にそぐわない仏頂面の青年が一人。
「……わかんねぇじゃんよ」
 シヴァだ。
 物は壊すし記憶力には欠けているしと基本的に乱雑なシヴァだが、方向感覚は優れている。迷うこともせずスムーズに依頼人との合流場所へたどり着いたのはいいが、ここでひとつ問題が発生していた。依頼人の顔を、まったく覚えていなかったのだ。
 もちろん、上司であるアレーンはそのデータをきちんとシヴァに渡している。データが収められたディスクそのものを確認しないかもしれない可能性も考慮したのか、依頼人の顔画像をプリントアウトまでしてファイルと一緒に手渡していた。ただ、それをシヴァがまったく見ていなかっただけだ。依頼の概要だけは確認したものの、日頃はパートナーに任せっぱなしにしている依頼人の顔を確認しておくという手順そのものを、シヴァはきれいさっぱり忘れ去っていた。
 それに、たった今気がついたのだ。しかも気がついた時にはすでに遅く、ファイルやデータ一式はまとめてメトロのステーションに置いてきてしまった。取りに行けばいい話ではあるが、待ち合わせの時間も目前だ。それに、いちいち戻るのもまた面倒くさい。どちらが切実な理由かといえば、シヴァにとっては後者だろう。
「まァ……向こうがわかってんだろ、きっと。ったく、めんどくせぇ」
 分かっていなかったらどうするのか?
 そんなことは微塵も考えずに、シヴァは噴水を取り囲む石造りの段差へと乱暴に座り込む。何かにつけスムーズに進まないが、どう考えても自分が悪いので責任転嫁のしようもない。
 せめて八つ当たりをしようと苛立たしげに地面を蹴り飛ばしたその時、着ていた革のジャケットを後ろに引っぱられてシヴァは情けなくもバランスを崩した。
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