惑星異聞【白】 2-1

「ミもフタもなく正直に言ってしまうとですね。メイが今まで世話になった病院って、今までに3つほどあるんですけど」
 ステーションから徒歩でしばらく、サハスの中央広場からもほど近い場所にあるホテルの一室が、記憶喪失少女メイとその暫定保護者リーンの滞在している場所だった。
 グライアの経済を司る四大財閥の一角、エスト・ダ・グレシアグループに属するホテルで、華美なわけでも仰々しいわけでもないがセキュリティや設備はしっかりしていると有名だ。その分宿泊費は決して懐に優しくないが、それは仕方がない。
 もちろん、シヴァがアレーンに指定された宿泊場所もここだ。行動を共にする必要があるのだから当然の措置なのだが、リーンに連れて行かれたホテルの名前を見るまでシヴァがそれに気づかなかったのは言うまでもない。
 メイとリーンが泊まっている部屋は、一般的なツインルームだ。シヴァの部屋は、フロントで聞いたところその隣らしい。
「3つとも、じつは今、閉鎖状態なんですよね。どうしてだかわかります?」
「知るかよ」
 考える気もなかったので、シヴァはあっさりと答えることを放棄する。少しだけつまらなそうな表情で、ソファに座らず窓ガラスへと寄りかかっていたリーンが説明した内容は、シヴァが予想していたよりもわずかに破天荒だった。
「ひとつは病棟で銃撃戦が起こって、そりゃもうひどい騒ぎでした。ひとつは爆弾仕掛けられたようで、病院の一部が吹っ飛んじゃったんですよね。どちらも怪我人が出なかったのが奇跡です」
「…………」
 確かに奇跡だろう。建物を吹き飛ばすのは簡単だが、中に人がいる場合、人的被害を出さないようにするのは至難の業だ。
「で、最後のひとつは白昼堂々誘拐犯が現れちゃいまして。しかも包囲されるのが早かったので逃げられなくなって立て篭もりまでやらかして、連邦警察の方々が大変そうでしたよ」
「……なんでンなゴタゴタが起こるとこばっか、入院してんだよ」
 なんとなく答えを聞きたくはなかったが、シヴァはいつも通りの仏頂面でそう口にしてみる。認めるのは悔しいが、予想通りなら自分が───というよりはメリー・ウィールのコマンドが駆り出された理由が納得できるからだ。
 無意識のうちに苦々しい表情になっていたのだろう。リーンは小さく苦い笑みをもらすと、メイの方へと視線を移す。メイは事態がわかっているのかいないのか、興味津々で冷蔵庫の中を覗き込んでいた。
「つまり、どれもこれも彼女が狙われていたってことですね。理由は、わかりませんけど」
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