惑星異聞【白】 1-6

 それは、一通のメールだった。なんでも屋に等しいメリー・ウィールの統括であるアレーンのにとっては珍しくもなんともない、仕事の依頼について記されたメールだ。
 内容は、べつに目新しいものではない。アレーンの目を引いたのは、その差出人で。
「ああ……そうか、この手があったねえ」
 一気に悩みが解消されたせいか、アレーンの声が知らず知らずのうちに晴れやかなものになる。
「ものは試し、やってみるしかないか。どちらにしろ、今手が空いているのはシヴァしかいないしねえ……?」
 なんで手が空いているのかといえば、先述の通りコンビを組むべきパートナーがいなかったからなのだが。
 そんなことはもうどうでもよくなったのか、アレーンはいつも通りの底が見えない笑顔を浮かべつつ、星間通信の端末に手を伸ばした。


 その翌日、コマンダールームに呼び出されたシヴァはコマンドになってはじめて、本来であれば割り振られるはずのない単独任務を上司に押しつけられることになる。
「依頼の内容は迷子の親……というか身元探しかな。あと迷子本人の他に暫定保護者の依頼人がいるんだけれど、その依頼人がこの仕事中に限ってシヴァのサポートをやってくれるそうだよ。だから、今回はシヴァの単独任務ということでも許可がおりたわけだけれど……ただコマンドのパートナーとは違うから、くれぐれも怪我をさせたりはしないように」
 にこにことのんきにそんなことを言い放ったアレーンの顔を、シヴァはまじまじとと見つめてしまった。もちろん、呆れてだ。
 べつに、シヴァもそうなることを狙って破壊してはいけないものまで壊しまくっているわけでも、相棒を病院送りどころか再起不能にし続けているわけでもない。ついうっかりやりすぎて、さらに失敗を重ねても学習せず、何度始末書を書かされようと減俸されようとそれを改めようとしないだけだ。それだけでも十分お騒がせではあるが、とりあえず悪気はない。つまりまったく改善への自己努力はしていないにしても、シヴァにも一応自分を足枷もないまま単独で放置したらまずいのではないか、ということはわかっている。なにしろ、シヴァは自分の自制心というものをいちばん信用していない。
「オイ待てよ、何考えてやがるこのタヌキ。オレにンなことできっこねぇだろ!」
「ああ大丈夫、そのあたりはさほどきみには期待していないからねえ。まあ、でも一応言うだけは言っておかないとあとで何を言われるかわからないし」
 誰に何を言われるのかわからないが、そんなミもフタもないことを口にしたアレーンが手にしていたファイルをシヴァに押しつけた。
 そのファイルを条件反射で受け取ってしまったシヴァの姿を満足そうに見やると、アレーンは朗らかにわけがわかっていない仏頂面の部下の背中を押す。
「と、いうわけで。フォレスティ、いってらっしゃい。仕事をきちんと終わらせるまで帰ってこないようにねえ?」
「なーにーがー『と、いうわけで』なんだか、イチからオレにわかるよーに説明してみやがれぇっっ!」
 当の本人に説明する気がまるでない以上、それは虚しい叫びにしかならなかった。
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