惑星異聞【白】 1-2

 事の起こりは、数日前にまでさかのぼる。
 グライア連邦軍情報部直属特殊戦闘連隊長であるアレーン・シーファンは、悩んでいた。たとえその顔に何を考えているのかまったくわからない笑みが浮かんでいようと、悩んでいたのは確かなのだ。少なくとも、心から笑顔を披露したい気分というわけではなかった。
 そのアレーンの目の前には、一通の封書があった。その表書きには、今どきめずらしく自筆で「除隊願」と書かれている。
 これを置いていった部下の悲壮な表情を思い浮かべてしまうと、アレーンといえども深い深い溜め息をつかずにはいられなかったというわけだ。
「やれやれ……困ったものだねえ」
 声色を聞く限りでは、さほど困っているようには聞こえない。だが、そもそもアレーンが深い溜め息をつくこと自体が稀だった。彼をよく知っている人がこの光景を目にしたら、まず確実に自分の目を疑うだろう。それほど、珍しくも思い悩んだ様子だった。
 幸運にも、今それを目にした人物はいない。もしかしたら誰の姿もないからこそ、溜め息をついたのかもしれなかった。
 それでも笑顔は消さないまま、アレーンは除隊届けをつまみ上げる。必死の思いでこれを出しに来た元部下を責めるつもりは、ない。思えば、長くもったほうだ。
「3ヶ月か……奇跡に近いねえ。いやあ、喜んでる場合でもないけどね……」
 頭の隅に追いやっていたそれまでの事情を掘り返しつつ、アレーンはそう呟く。聞く者は誰もいなかったが、ため息をつかずにはいられなかったというのが正直なところだった。
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