What's New ?
 

惑星異聞【白】 2-7

「それはいいんですけど、その前に僕の話も聞いておいてもらえますか。せっかく調べてきたんですし、実際に使うかどうかはともかく伝えておかないともったいないですから」
 奪い取るつもりだった地図が、シヴァの指先を掠めて遠ざかっていく。腹立ちまぎれに伸ばしたシヴァの手から身軽に逃れて、リーンはにこやかに笑った。
 苛立ちを隠そうともしないシヴァの視線は、鋭いを通り越して物騒なものに近い。直視されれば大抵の人間は自らに否がないことを知っていても謝りたくなるし、できることなら視線を外してその場を逃げ出そうとする。
 シヴァは、それを自覚している。それなのに己の手が届く範囲から遠ざかっただけでリーンが顔色ひとつ変えなかったことに、かなり意表を突かれた。
 そんなシヴァの戸惑いにはおそらく気づいていないのだろう。手際よくホテルの地図をテーブルの上へと広げたリーンが、一点を指差す。
 言うことを聞く気はまったくなかった。なのについ指の動きにつられて指定された箇所へと視線を移したシヴァは、目を瞠る。
「セキュリティを一括管理しているのは、ここですね。地下です。」
「……用意いいじゃねーか、オマエ」
 詳細に描き込まれた地図のあちらこちらには、明らかに手書きで後から印がつけられていた。
 余白にはナンバーとメモが書き加えられている。どこで聞いてきたのかは知らないが、この詳細地図だけでなく本来であれば決して部外者などには流出しない情報を、リーンはきっちりと事前に入手してきていたらしい。
 別に、めずらしいことではない。今まではパートナーが普通にやっていたことだ。ただ、シヴァがそんなことを思いつきもしなかっただけで。
「あのですね。僕がなにも考えずにメイと自分を囮にしたとでも思いましたか?」
 そして、シヴァは気づかない。
 いくらサポート役を務めてくれるという話になっていたとしても、なぜメリー・ウィールのメンバーでもないのにそんな特殊なデータを手に入れることができたのか、ということには。
「あたりまえじゃん」
 だから、普通にうなずく。
「ほんっとーに、聞いたとおりの方なんですね」
 さすがのリーンも、とうとう呆れた表情を見せた。
虚構文書 > 惑星異聞【白】 | - | -