− この闇の向こう −




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この闇の向こう-2-

 

ココはどこだろう・・・。

村雨の部屋を飛び出してから、無我夢中で走り抜けた。どこをどうやってやって来たのか、まるで覚えていない。

ふと気がついた時には、見知らぬ場所にまぎれ込んでいた。

・・・村雨の言う通りだ。みんな僕の所為なんだ・・・。

僕はこんなに弱い人間だったのか・・・?

京一からも・・・霧島からも・・・村雨からも逃げ出した。

いつもみんなの顔色をうかがって・・・うやむやにして・・・きっと・・・、きっと今までのツケが、回って来たんだ。

僕は一体どうしたら・・・・・・

その時、ふらふらと歩く僕へと声がかかる。

「龍麻!?龍麻じゃないか!いったいどうしたんだ、こんな所で。」

その声は・・・

「・・・如月。それに壬生・・・。」

「君にこんなところで会えるなんてね。・・・大丈夫かい?なんだか顔色が悪いよ?」

「・・・ココ、どこ?・・・」

僕が弱々しく問いかけると、二人顔を見合わせる。

「どこ・・・って、神田、だが?僕らは古書店へ本を探しに来たんだ。」

神田・・・?

どうりで見覚えのない場所だ。神田へはほとんど来たことがない。

「・・・本当にどうしたんだ。何かあったのか?」

如月が僕の顔を覗きこむ。

「ううん・・・なんでもない・・・なんでもないんだ・・・。」

「なんでもないやつが、泣いたりしてるわけないだろう。」

え?泣いてる?

そう、僕は泣いていた。知らない間に頬を伝う涙。

「あ、あれ?なんで・・・。」

・・・ふぅ。

如月と壬生、どちらが漏らしたのかわからないため息が聞こえる。

「とにかく・・・、そうだな。どこか落ち着ける店にでも入ろう。」

 

 

小さな喫茶店。カウンターの中で、マスターがのんびりとテレビのゴルフ中継を眺めている。

「・・・そういうこと、か・・・。」

僕は二人に全部話した。京一の事。霧島の事。村雨の事。二人は僕がぽつりぽつりと話す間、じっと聞いていてくれた。

「それで?もう決まっているんだろ?」

「え?」

壬生がコーヒーカップを口に運びながら、問いかけて来る。

「ずいぶんと自虐的になってるようだな。だが、僕らの知っている緋勇龍麻という男は、もう少し決断力があったと思っていたのだが?」

「君は、いつも何もかも自分の中に抱え込んでしまうだろ?だけど今日、僕らにこうして話してくれた。それはきっと君の中では、もう決着が着いてるからじゃないのかい?」

如月と壬生、それぞれが僕に答えを促す。

「どうやら君は僕が思っていたよりもずっと純真・・・というか・・・ウブなんだな。」

「ど、どういう意味だよ?」

「恋愛には疎い、って事さ。・・・君の心を捕らえている闇が何なのかまでは、僕らには分からない。その闇の向こうに何があるのか、知っているのは・・・、君自身だけなんだよ。」

心の闇の向こう・・・?闇を抜け出せば全てが見えるというのか?僕の心の全てが・・・。

考え込んでしまった僕を、二人はじっと見つめている。

「・・・まだ・・・よくわからないよ・・・。でも、ありがとう。なんか二人に聞いてもらったら、少しすっきりした。」

「まぁ、自分自身の事だからね。よく考えるといい。・・・ただ、覚えておいてくれ。君がこのままでは、2人の心が傷つくのだということだけは・・・。」

「うん・・・。ゴメンね、二人に心配かけちゃって。」

僕の顔に自然と笑顔が浮かぶ。なんか、本当に久しぶりに笑ったような気がする。

その僕の顔を何故かぼーっと見つめる二人。

「? どうしたの二人とも?」

二人とも、僕のその言葉にハッとする。

そして如月は、どこか落ち着かない様子で、深いため息をついた。

「な、何だよ?僕が笑うと何かあるのか?」

「・・・紅葉・・・。」

「はいはい、わかりましたよ。・・・龍麻、君は今、自分がどんな顔をしていたのか気付いてないんだね。」

「え?」

どんな顔・・・って、ただ笑っただけ・・・だよな?

「君は本当に人を惹きつける・・・。君の笑顔を見るためなら、どんなことでもしたくなってしまう。君の周りに、あれほど多彩な人間が集まるのも、分かる気がするよ。」

「・・・無邪気・・・というのは恐ろしい物だな。君はもう少し、自分の魅力、というものを理解した方がいい。」

・・・???

「み、魅力?何のことかよくわからない・・・???」

ふぅ・・・。

そんな僕を見て、今度は二人同時に溜め息をついた。

 

 

それからしばらくは、他愛もない話が続いた。だけどその中で一番僕を驚かせたのが、目の前の二人が付き合っている、ということだった。

「へぇ。驚いたなぁ。いつの間にそんな風に?」

ふぅ・・・。

「な、なんだよ、如月?・・・なんか今日は、みんなため息ついてばかりだな。」

僕と如月のやり取りを見てくすくすと壬生が笑う。

「本当に気付いてもらえてなかったみたいだね、翡翠。」

「・・・ああ。」

「・・・?なんのこと?」

くすくす。

「翡翠はね、君のことが好きだったんだよ、ずっと。」

え!?き、如月が僕の事!?

「そ。でもなかなか君に気付いてもらえなくてねぇ、落ち込んでるところを僕がいただいちゃったのさ。」

「紅葉!!」

い、いただいちゃった・・・って・・・・

如月の方へ顔を向けると、如月は真っ赤になってた。・・・こんな表情を見るのは始めてだ。

「まったく・・・もう少し言葉を選んだらどうだ。」

「はっきり言っておかないと、あなたが龍麻に未練を残したら、僕が困るからね。」

「・・・・・・。」

み、壬生ってこんなヤツだったのか・・・知らなかった。

何だか今日はみんなの知らなかった一面がどんどん出てくる。

京一が転がり込んだのが、村雨の所っていうのも意外だったし、壬生や如月がこんな表情をするなんて・・・。

・・・僕は一体今まで、みんなのドコを見てたんだろう・・・。

 

その時、テレビから流れた『臨時ニュース』の言葉に、3人ともびくっと反応してしまう。

もう闘いは終ったはずなのに思わず身構えてしまった、自分に苦笑する。

だけど、その後続いた内容を耳にした僕の心が凍りつく。

『本日3時頃、○○区の△△ホテル最上階ラウンジで爆発事故が発生、利用客など多数に怪我人が出た模様。なお、爆発時、現場に人気アイドル歌手、舞園さやかさんがいたという情報が入っており、安否が気づかわれております。』

爆・・・発・・・事故・・・?さやかちゃんが巻き込まれた・・・?じゃあ、霧島・・・霧島は・・・?

「龍麻!!おい、しっかりしろ!!」

「龍麻!!」

遠く、如月と壬生の声を聞きながら、僕の意識は真っ暗な闇へと落ちて行った・・・。

 

 

 

「霧島くん!!霧島くん!!しっかりして!!霧島くん!!」

どこか遠くでさやかちゃんの声が聞こえる・・・。

僕は・・・僕は一体どうしちゃったんだろう・・・。

「・・・さ・・・さやか・・・ちゃん・・・・?」

「霧島くん!!気がついたのね!!」

そうだ、確か何か爆発するような凄い音がして、僕とさやかちゃんは衝撃で壁に叩きつけられたんだ・・・。

「い、一体何が・・・?」

ラウンジにいた他の人達が、不安そうに寄り添い合いこちらを見ている。

・・・どこかでうめき声とすすり泣く声が聞こえる。

「それが・・・、よくわからないけど、どうも何かの爆発事故らしいの・・・私たち・・・。」

そこまで言うとさやかちゃんは、その目いっぱいに涙を浮かべる。

「どうしたの?さやかちゃん。」

「私たち閉じ込められちゃったみたいなの・・・。」

 

 

 

「・・・気がついたか?」

「ここは・・・?」

「あの喫茶店だよ。君はニュースを聞いたあと倒れたんだ。」

そうだ・・・。爆発事故!!

「き、霧島は!?」

「さっき舞園さんの事務所へ問い合せてみたんだが、まだ救出されてないらしい。霧島が舞園さんと一緒なのは確かだそうだ。」

「なんでも、爆風が上へと突き抜けたために、あちこち崩れさっていて、現場に突入が出来ないって。上からもダメ。下からもダメ。今のところ八方塞がり、ということらしいね・・・。」

そ、そんな・・・。

「い、痛い・・・。」

「どうした、龍麻!?」

「胸が・・・痛いんだ・・・。」

「・・・・・・。」

胸が痛い・・・苦しい・・・霧島・・・霧島に会いたい・・・

「ど、どこへ行く、龍麻!?」

霧島・・・霧島・・・

もうその時僕の頭の中には、霧島に会いたい、それしかなかった。

 

 

 

すごい報道陣と野次馬の数。

さやかちゃんが閉じ込められてる、そのことで通常よりも大騒ぎになっているらしい。

駆け付けた僕の後を、如月と壬生も付いて来ていた。

「どうやらまだ救出はされてないようだな。」

レスキューや消防の人達が右往左往している。警察は大勢の野次馬を整理するので手一杯のようだ。

「どうするんだ?龍麻。」

「行く。」

行かなきゃ。霧島のところへ・・・。まだ・・・まだ言ってないんだ・・・。

その時僕は気付いていなかった。・・・もう自分の心がたった一人を選んでいたことに・・・。

 


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