− Force & Mind −
Force & Mind -2-
「はい、霧島です。」
マネージャーさんからかな? そう思いながら出た携帯は僕にとって一生忘れられないものになってしまった。
京一先輩からのその電話は、龍麻先輩の重傷を伝えるものだった。
後で、さやかちゃんに聞いたのだけれど、その時の僕は、携帯を握り締めたまま呆然として、はたからみると随分酷い有り様だったらしい。
龍麻先輩が・・・あの誰よりも強い龍麻先輩が重傷だなんて・・・
「京一先輩ッ! よろしくお願いしますッ!!」
「おう! しっかりついてこいッ。」
龍麻先輩が入院してから今日で3日目・・・。
僕と京一先輩は、ここ、真神の旧校舎へとやって来ていた。
あの日・・・、龍麻先輩が、入院した日から毎日、僕は時間を惜しむようにしてここで闘い続けていた。
『阿修羅活殺陣!!!!』
僕らの声が揃い、方陣技が発動する。
僕らの《力》は蒼い光を発し、敵をなぎ倒して行く。
どうやら、これでこの階の敵は全て倒したようだ。
「京一先輩ッ! 早く次へ行きましょう!」
僕が催促すると、京一先輩は少し困ったような顔をした。
「なァ、諸羽。一体どうしちまったんだ。お前らしくねェ。」
「え!?」
「何をそんなに焦ってるんだ。そんなんじゃ身に付くものも、付かねェぞ。」
焦ってる? 僕が?
京一先輩にはそう見えるのだろうか?
「《力》ってのはやっかいなもんだ。《力》を求めるあまり、どんどん周りが見えなくなって、壊れていッちまったヤツは大勢いる。ただ《力》が付きゃ、強くなれるってもんじゃねェ。だが、今のお前のままじゃ、きっとそうなっちまうぜ。」
なんせ、俺たちの《力》は特殊だしな---。
その京一先輩の言葉に、この前、龍麻先輩と一緒にここへ来た時のことが思い出される。
敵をなぎ倒す龍麻先輩は確かに強いけれど、その表情はどこか苦しげで、儚げで・・・
誰よりも強い《力》を持つあの人は、一体どんな思いを抱えて闘っているのだろう。
龍麻先輩・・・。
このままじゃ・・・今の僕のままじゃ、あの人を護れる強さを、手に入れられない・・・?
あの時の龍麻先輩の優しさ・・・胸の暖かさ・・・手の感触・・・次々と思い出してしまった僕の頬を涙が伝う。
「お、おい、諸羽! 別にお前を怒ったってェわけじゃ・・・」
「・・・違うんです、京一先輩。僕は、どうしても強くなりたかったんですッ。 『あの人』を・・・龍麻先輩を護れるくらいにッ!!」
そうして僕は、目の前の京一先輩に向かってはっきりと告げる。
「僕は・・・僕は、龍麻先輩のことが好きなんですッ!!」
「なッ、何ィ?」
突然の告白に、眼を白黒させ驚く京一先輩。
「お、お前はさやかちゃんのことが好きなんじゃなかったのか!?」
「・・・さやかちゃんのことは、確かに好きです。ずっと小さい頃から彼女を護れるくらいに強くなることが、僕の理想でしたから・・・。」
でもさやかちゃんに対する気持ちは恋じゃない。単なる保護欲だけだ。いつかさやかちゃんに好きな人が出来たら、喜んで護り手の座を譲るだろう。
何故なら僕の想いは、あの日から龍麻先輩へと向いているのだから・・・。そう気付いてしまった。
「京一先輩が、龍麻先輩のことを好きなのは知ってます。ううん、京一先輩だけじゃない。如月さんや、劉さん、他の皆さんも龍麻先輩のことが好きなんですよね・・・。だけど僕、諦められないんです。・・・龍麻先輩の隣にいたい。笑顔を独り占めしたい。全てを懸けて護りたい。もうずっとそんな事ばかり考えてしまってるんです。」
「・・・・・・・。」
「だから・・・だからもうあんなことのないように、僕はもっともっと強くなりたいんですッ。」
ベッドに横たわる、青白い顔の龍麻先輩。もうそんな姿は二度と見たくない。
「・・・ッたく・・・。とんだトコからライバルの出現だな。まさかお前までひーちゃんに惚れるたァな。」
頭を掻きながら呟く京一先輩。
「きっと・・・龍麻先輩を好きにならない人なんて、いないんじゃないかな、と思います。」
時代に選ばれるという、『黄龍の器』。
誰よりも人を惹きつけ、魅了する---僕には、龍麻先輩の本当の《力》が、あの眼にこそ宿ってるような気がしてならない。
『黄龍の器』が、《力》を持つ者と『菩薩眼の娘』との間に産まれるというのなら、龍麻先輩が、菩薩眼の《力》を持っていても、おかしくないって、そう思うから・・・。
「んじゃ、行くか?」
「え?」
京一先輩は、ふぅ、と溜め息をつき、僕の肩に、ぽんっと手をおいた。
「強くなるんだろ?俺よりも・・・。ひーちゃんの為に・・・。」
「は、はいッ!!」
「諸羽、もう少し余裕を持て。焦ってお前が大怪我でもしたら・・・それが自分の為だって知ったら、ひーちゃんは死ぬ程悔やむぞ。」
「・・・そうですね・・・そうですよね・・・。すみませんッ京一先輩!!」
やっぱり京一先輩は、かっこいい。よかった、今ここに京一先輩が居てくれて。
「でも、やっぱり、龍麻先輩だけは京一先輩にだって、譲れませんからッ!」
「・・・このォ、ナマ言ってんじゃねェ。」
僕達は顔を見合わせ笑い合うと、次の階目指して足を進めて行った・・・。