− Force & Mind −




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Force & Mind -3-

 

「えーっと、チキンは買ったし。シャンパンもOK、と・・・。あと、クラッカーとかもいるのかな?」

今日はクリスマス・イブ。僕はさやかちゃんの仕事があがりしだい開かれる、クリスマスパーティに参加するため、雑踏を抜け、事務所へと向かっていた。

さすがに今日は、いつもより人出がある。しかもカップルばかりだ。電飾に彩られた町並みを歩く、幸せそうな人達。

そんな人達を見て、僕はふいに龍麻先輩の顔を思い出していた。

 

今日、龍麻先輩が退院すると京一先輩から、連絡があった。

だけど、学校が終わり、病院に行った時にはもう、龍麻先輩は帰ってしまった後だった。

今ごろ龍麻先輩は、誰かと一緒に過ごしているのだろうか・・・。

その考えに、チリッ、と胸が痛む。

『ピピピピピ・・・・』

まるで痛みと連動でもしていたかのように、携帯電話が鳴り出す。

「はい、霧島です。ああ、こんばんわ。・・・え!? はい・・・・はい、そうですか・・・。そうですね、じゃあまた明日ということで。ええ、構いません。はい・・・、ではお休みなさい。」

電話は事務所の社長さんからだった。

今日さやかちゃんが出演している歌番組で、器材が間に合わないというトラブルが発生したため、収録が大幅に延長しているらしい。だから、今日のパーティは明日に延期する、という内容だった。

「これ、どうしよう・・・。」

シャンパンは明日も使えるとして、チキンは・・・とりあえず家のみんなで食べてもらうしかないか・・・。

ぼんやりとそんなことを考えながら、家へ帰るため、駅へと足を向けた。

「僕もいつかは、龍麻先輩とあんな風にクリスマスを過ごしてみたいな・・・。」

駅前の大きなツリーの前まで来た時、寄り添い合うカップルを見て、ふと呟く。

 

「あれ?霧島じゃないか!?」

その時、まるで天が僕の願いを聞き届けてくれたかのように、背中へと声がかかる。振り向いたその先には・・・

「た、龍麻先輩ッ!! どうしてこんなところに!?」

「さっきまで京一と一緒だったんだけどね。なんだか、まだ家に帰りたくなくて、ちょっとふらふらしてたんだ。」

「え!?だ、ダメじゃないですかッ!! 今日退院したばかりなんでしょう!? 早く帰ってゆっくり休まなきゃ!!」

僕がつい怒鳴ってしまうと、先輩は、ばつが悪そうに首をすくめる。

か、かわいい・・・。

その仕草があまりに可愛らしくてつい見とれてしまった。

「それで、霧島はどうしたんだ?その荷物、どこかのパーティにでも行くんじゃないのか?」

はぐらかすように問いかけてきた先輩に、さっきの電話のことを話す。

すると、先輩は、ちょっと考える様子を見せたあと、僕に提案してきた。

「じゃあ、これから僕の部屋に来ないか?どうせ一人暮らしだから遠慮はしなくていいからさ。男同士で悪いけど、ささやかなパーティでもしよう。」

ぼ、僕が龍麻先輩の家に!?

「い、いいんですか!? お邪魔しちゃってもッ?」

思わず興奮してしまった僕を見て、先輩はクスッと笑う。

「? 何ですか?」

「いや、なんか今の霧島って、尻尾を振ってる小犬みたいだな・・・って。かわいいって言ったら怒るかな?」

その言葉に思わず赤くなってしまう僕だった。

 

「お邪魔しますッ!!」

「どうぞ、勝手に上がっていいよ。」

初めて入る龍麻先輩の部屋。なんだかひどくドキドキする。

そこは、必要以上に物がなく、こざっぱりとしているけれど、先輩らしい暖かみのある部屋だった。

テーブルの上にシャンパンを置き、チキンを取り出す。来る途中に買った小さなケーキに、ろうそくを立て火をつける。龍麻先輩はグラスを持って、戻ってきた。

グラスにシャンパンの泡が広がる・・・。

「メリークリスマス!」

チンッ、という音を立ててグラスを合わせ、僕達はシャンパンを流しこんだ。

「・・・先輩はあまり飲んじゃダメですからね。」

僕がクギを刺すと、先輩はクスクスと笑う。

「今日の霧島には勝てないなぁ。」

「でも・・・、本当にどうしてあんなところにいたんですか?」

家に帰りたくないなんて・・・どういうことだろう?

僕がそう問いかけると、先輩の笑顔は、急に苦しげな表情へと変化した。

「・・・恐いんだよ。一人になるのが・・・。一人でいるとまたあの時のことを思い出してしまうんだ。」

あの時・・・柳生とかいう男に切られたことだろうか・・・?

「かといって、京一や雄矢には、弱みは見せられないしね。あいつらは見ていたから。・・・僕が倒れる瞬間を。」

「先輩・・・。」

じゃあ・・・僕は一体・・・?

「だけどさ、どうしてかな? なんか今、霧島には甘えたいような気分なんだ。変・・・かな? 霧島の方が年下なのにね。」

その言葉に、はっと先輩の顔へ視線を向けると、先輩の目元がほんのり紅く色付いているのに気がつく。

テーブルを見ると、いつのまにかシャンパンの瓶の残りは、ほとんどなくなっていた。

「せ、先輩! 飲んじゃダメですッて、言ったじゃないですか!」

どうやら僕が、先輩の話について考え込んでいる間に、飲んでしまったらしい。

再びクスクスと笑いだす先輩。どうやら少し酔っているみたいだ。

普段はもっと強いと聞いてるけど、やっぱりまだ体が弱ってるせいだろうか。シャンパン1本で酔うなんて・・・。

少し上目づかいで、甘えるような仕草・・・。

ドクッと心臓が胸打つ。

・・・気がついた時には僕は、龍麻先輩を抱きしめていた。

「・・・霧島?」

僕の意図が掴めないらしく、ぼんやりと先輩は尋ねて来る。僕はそんな先輩の顎へ手を掛けると、そっと上向かせ口付けた。

「ん・・・っ」

先輩の唇から吐息が漏れる。その声が僕の熱を、一気に煽り立てる。右手を先輩の頭の後ろへ回し、今度は角度を変えて激しく唇を貪る。

「んっ・・・んんっ」

息苦しさからか、わずかに開いた隙間へと舌を差し込み、搦め取る。飲みきれなかった二人の唾液が、混じり合い、先輩の喉を滑り落ちていく。

「んっ・・・はぁっ、はぁっ・・・。」

思う存分感触を味わった後、手を放すと、先輩は荒く息を継いだ。

少し酔っていた上、急な展開についてこれないらしい先輩は、それでもまだ、ぽーっと僕を見上げている。

---瞬間、僕の心は決まった。

先輩の体をそっと横から抱き上げると、ベッドへと足を向ける。僕と身長はさほど変わらないはずなのに、ずいぶんと軽い。

「き、霧島?」

突然、重力から切り離され、不安定な体勢の先輩は、慌てて僕へとしがみついてくる。

先輩をベッドへと横たえ、その上から覆い被さる。そうして再び、その唇を荒々しく奪う。

右手はシャツのボタンを外すべく、胸元を彷徨わせる。

・・・こんなこと今まで、誰にもしたことなかった。なのに、何故先輩だと、こうも体が熱くなるのか・・・。

「んんっ・・・き・・・りし・・・ま・・・」

胸の飾りを親指で転がすと、先輩がもどかしそうな声を上げる。

「や・・・やめろ・・・」

どうやら酔いが醒めてきたらしく、弱々しい否定。

・・・だから僕は告げる。耳元へと口を寄せ・・・。

「先輩の全てを僕に下さい・・・。」

そのまま唇は、耳たぶを嬲る。ぴちゃぴちゃという音が、淫らに響き渡る。

「はっぁ・・・」

体を捩って逃れようとする先輩。でも力が入らないみたいだ。

それは感じている証拠・・・。そんな様子に勇気づけられる僕。

唇を胸元までおろし、シャツをはだけた胸の飾りを口に含む。舌で転がすと、先輩の身体がびくっ、と跳ね上がった。

右手でズボンのベルトを外し、そっと手を差し込む。先輩のはもう軽く立ち上がっていた。

「感じてくれてるんですね、嬉しいです・・・。」

そのまま緩やかに揉みこむと、先輩の口から切なげな声が溢れる。体に与えられる感覚に、心が着いていけないみたいだ。

「やめろ・・・霧島。どうして、お前・・・が・・・。」

「・・・先輩が悪いんですよ・・・そんな風にして僕を誘うから・・・。」

「さ、誘ってなんか・・・はぅっ」

きゅっと右手を握りしめると、先輩の分身はぐっと体積を増した。

・・・こんなに感じているのに?あなたは僕を否定するの?

「・・・自分に正直になれば、もっと気持ちよくなれますよ・・・。」

自分でも意外だ。同じ性を持つ相手にこんなことができるなんて。こんな気持ちになるなんて・・・。

ズボンの中の手が、先端のぬめりによって奏でる音と、先輩の口から漏れる喘ぎが、僕の心を狂わせていく。

僕の心の中は、こんなにもこの人で一杯だったんだ。

こんな拙い愛撫なのに、感じてくれている先輩をもっと見たくて、思い切ってズボンを下着ごと引き抜く。

布の擦れる感触ですら快感になるようで、先輩は切なげに身体を捩る。

だけど、その時僕の耳に届いたのは・・・先輩の押し殺したような嗚咽。

「・・・先輩・・・泣いて・・・るんですか・・・?」

「お前なん・・・か・・・う・・・うっ」

「・・・嫌わないで下さい、僕を拒まないで下さい。・・・だって、だって僕は・・・あなたが好きだから・・・。」

「!?」

「あなたが好きなんです。もうどうしようもないくらいに。いつか、もっともっと強く・・・そう、京一先輩より強くなったら、あなたにこの気持ちを告げようと思っていました。だけど、もう今は押さえられないんです・・・。」

だから・・・すみません・・・

僕の告白で、わずかに抵抗の止んだ先輩の股間の奥、普段は隠れている場所へと手を伸ばす。

「ひっ!!」

そこは、前から溢れ出たぬめりで濡れていた。柔襞を掻き分け、指を1本入れてみる。

ぬめりに助けられた指は、なんなく内部へと進入していく。

「くっ・・・う・・・」

「痛いですか?」

ゆっくりと出し入れすると、固く閉まっていた門は、少しずつ扉を広げていく。

少し開いては指を抜き、たっぷりと濡らしてから再び挿入する。

だんだんと感じてきているのか、ショックで萎えていた前も、いつの間にか元の硬さを取り戻していた。

恥ずかしそうに顔をシーツへと押しつけ、必死で声を上げまいと殺している様は、普段からはとても想像出来ない程淫らだ。

そんな肢体に我慢できなくなった僕は、先輩の両腿に手をかけ持ち上げて、狙いを定める。

「い・・・いや・・・やめ・・・」

僕が何をしようとしているのか察した先輩は、最後の抵抗を試みる。

「・・・行きますよ・・・。」

部屋に先輩の悲鳴が響きわたった・・・。

 

「すみません。痛かったですか?」

俯せで顔を僕から背ける先輩へと声をかける。

「・・・当たり前だろ?」

少しかすれた声。どうやら目一杯泣かせちゃったみたいだ・・・。

「本当にすみません、まだ体調が万全じゃないのに。・・・途中から、押さえが利かなくなってしまったんです。その・・・先輩があんまり可愛かったから。」

「ばっ・・・ばかやろう・・・・」

「でも・・・僕は後悔してませんから。」

「・・・・・・。」

「好きなんです、愛してるんです、あなたを・・・。あなたの声をいつも聞いていたい。あなたの幸せそうな笑顔を見ていたい。だから・・・」

唇を先輩の耳へと寄せ、囁く。

「僕を・・・、僕の気持ちを受け入れて下さい・・・。」

「・・・・・・霧島・・・。」

辛そうに、ゆっくりと起き上がった龍麻先輩は、あの眼差しを僕へとまっすぐ向ける。

「ゴメン・・・。」

その瞬間、僕の心は砕け散りそうになった。

「どうして・・・やっぱり僕じゃダメなんですか・・・僕じゃあなたを護る資格はないんですか・・・?」

僕の頬を涙が伝う。なんだかこの間から泣いてばかりだ。でも、それはみんな先輩のことで・・・。

もう今の涙は、僕には止められない。

そんな僕の様子に、先輩は慌てたように告げる。

「ち、違う。そうじゃないよ。・・・ゴメンって言ったのは・・・今はまだ答えられないってことなんだ。」

「え!?」

「まだ全てが終わったわけじゃない。あの男を倒さない限りは終わらないんだ。だから今は、他のことを考えている余裕がない。」

その言葉に、流れていた涙が止まる。そう、今の僕の涙を止められるのはこの人だけ。

「霧島のことは・・・その、嫌いじゃないよ。・・・本当に嫌いだったら、今ごろ殴り倒して部屋から放り出してる。」

「先輩・・・。」

「だけど、好きかどうかは、まだ自分でもわからないんだ。だから・・・僕に考える時間をくれないか。」

嫌いじゃない、その言葉が僕の胸へとゆっくり染み込んでゆく。

「・・・はいッ。僕、頑張りますッ。あなたに好きになってもらえるように。だから・・・、だからいつまでも待ちますッ。」

そっと抱きしめ、先輩へ告げる。もっともっと強くなろう。この人が最も信頼して、背中を預けてもらえるくらいに・・・。

 

 

おまけの後日談

 

最終決戦へと向かう前に立ち寄った花園神社で、龍麻たちは霧島と舞園に出会った。

ふと、京一は霧島を見たとき、その視線が熱く龍麻へと注がれているのに気付く。

そういや、コイツ、俺にライバル宣言したんだっけ・・・。

ひーちゃんはもう知ってるんかなァ・・・。

そんなことを考え、視線の先を辿った京一が見たものは・・・、

ポッ、と頬を赤く染め(しかも凶悪なくらい可愛い)、不自然に霧島から目をそらす龍麻の姿だった。

な、なにィ! まさか、こいつら俺の知らないところで、何かあったってのか!?

「ちょ、ちょっと諸羽! こっちへ来い!!」

「何ですか? い、痛いですよッ、先輩!!」

京一は、霧島の腕を引っ張りながら、人通りのない神社のすみへと連れ出す。

「おい、諸羽! 正直に答えろよッ。もしかしてお前・・・、ひーちゃんと何かあったのか?」

「何かって・・・何ですか?」

「そ、そりゃ・・・お前・・・その・・・。」

逆に訊ねられ、思わず言い淀んでしまう京一。意外と純情である。

「え・・・えっとォ、なんだ、・・・好きだって言った・・・とか、キスしたとか・・・」

やっと京一の言いたい事が分かったのか、急に霧島はサッと顔を赤く染める。

「そ、それなら、クリスマス・イブの日に好きだって伝えて・・・、それから、あの・・・その夜、一緒に過ごしました・・・けど・・・。」

馬鹿正直に答える霧島。そして、衝撃でかくん、と顎を落とす京一。

一晩一緒って・・・、一晩一緒って、何してたのかしら? 僕子供だからわかんなーい。

思わずつまんないギャグが頭をよぎる。

・・・第一、イブの夜っていやァ、ひーちゃんは俺と一緒だったじゃねェか!!  ま、まさかその後・・・か?

パニックを起こした京一の頭の中で、ひよこが飛び回まわる。

そんな京一の様子にはまったく気付かず、霧島は、端で聞けばどう考えてものろけとしか思えない様な爆弾を、次々と投下していく。

「僕もなんですけど・・・、龍麻先輩、始めてだったみたいで、すごく締まってて、気持ちよくって、思わず夢中になっちゃって・・・」

「ちょっ、ちょっと待て!! 締まってって・・・ま、まさかお前が、そのなんだ、・・・ひーちゃんに突っ込んだ、ってェの、か?」

お、お前が「下」じゃねェのか!?

「え? そうですけど?」

「・・・・・・・・・。」

・・・あっけらかんと告げる霧島を見て、龍麻の事に関しては、この先一生勝てないだろうと悟る、蓬莱寺京一なのだった・・・(嗚呼、涙)

 

ちゃんちゃん

 


Happy End?

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