− Force & Mind −
Force & Mind -1-
いつからだったのだろう。僕の視線が、『あの人』を追う様になっていたのは。
他校の校門前で人を待つのは、結構恥ずかしい。
通り過ぎる生徒たちが、ちらちらと僕を盗み見て行く。
「よう! 諸羽じゃねェか。どうした?」
よかった。先輩達だ。
「京一先輩ッ! 龍麻先輩ッ! 皆さん、こんにちは! 今日は龍麻先輩に、旧校舎に付き合ってもらう約束なんです。」
「え? そうなの? ひーちゃん。」
「ああ、霧島に誘われててね。」
そんなに意外かなぁ? 僕が京一先輩以外を誘うって。
「旧校舎なら、京一と行った方が、方陣技が使えるんじゃないか?」
「いえ、いいんです。今日は、龍麻先輩の闘いぶりを見せてもらおうと思ってるんです。」
いつも闘いでは、京一先輩の後を追うので精一杯で、龍麻先輩がどんな闘い方をしているのかよく覚えていない。
だから、いつかすぐ近くで、じっくり見てみたいって思っていたのだ。
どうしてそう思ったのかは、僕にもよくわからないけれど。
「今日はさやかさんは一緒じゃないの?」
「さやかちゃんですか?」
美里さんのその問いかけに何故かムッ、と感じてしまう。
「さやかちゃんは、今日はドラマの収録で、お昼からずっとスタジオです。僕だって、いつもいつも、さやかちゃんと一緒って訳じゃありません。」
「そ、そう。ごめんなさい。」
思わず語気が荒くなってしまった。どうしちゃったんだろう、僕は。
『ぎぇゃあ〜〜〜』
また敵が1匹ふっ飛ぶ。改めて見たけれど、龍麻先輩の闘いぶりはとても鋭い。
京一先輩の攻撃が直線的で、ダイナミックなのに対して、龍麻先輩は右に左にと、流線的に敵の懐に飛び込み、突き崩す。
これが、時代に選ばれた人の闘いなのか・・・。
「霧島!! 危ない!!」
つい、ぼーっと見とれてしまっていた僕に、龍麻先輩の叫び声が耳に届く。
慌てて振り返った僕の目に入ったのは、間近に迫った敵の姿。
間に合わない!
衝撃を覚悟して、思わず目を閉じてしまった僕が、次に目を開いた時、目にしたのは・・・
僕と敵の間に飛び込み、僕の代わりに傷を負ってしまった、龍麻先輩の姿だった・・・。
「すみません、本当にすみません。」
壁に凭れ、まだ少し苦しそうな龍麻先輩。僕の所為で・・・
「・・・もういいよ、霧島。薬を飲んだから、だいぶ楽になったし。それより、霧島の方は、怪我はなかったかい?」
龍麻先輩は優しく僕に聞いてくる。なんだか、その優しさが胸に痛い。
「・・・霧島!? どうしたんだ?」
「え!?」
龍麻先輩に言われて始めて気付いた。僕の頬を流れ伝う涙を。
「あ、あれ? なんで、どうしてかな?」
止めたいのに、流れ出す涙はちっとも止まってくれない。
「・・・霧島・・・。」
「た、龍麻先輩ッ!?」
突然、龍麻先輩は身を起こすと、僕をそっと抱きしめてくれた。
「もう大丈夫だから、心配ないから。だから泣かないでくれ・・・。」
あやすように、僕の背中を撫でる優しい手。
龍麻先輩の胸は、とても暖かくて、居心地が良くて・・・。
胸に頭を凭れかけていると、胸の痛みがすっと消え、僕の涙も止まった。
「あ、ありがとうございます・・・龍麻先輩・・・。」
そのとき、僕は突然思い出した。何故、僕が京一先輩みたいに、なりたいと思ったのか。
羨ましかったんだ。
この人の隣で、そして、この人が誰よりも信頼して、背中を預けて闘える京一先輩が・・・。
あの、初めて会った闘いの時、思ったんだ。
僕もこの人を護れるくらい、強い男になりたいって。
「今日は、本当にありがとうございましたッ!!」
「ああ、気を付けて帰るんだよ。」
校門を出て、帰って行く龍麻先輩の背中を見送りながら、僕は誓った。
絶対京一先輩を越えて、この人を護れる力を手に入れてみせる、って・・・。
そうしたら、きっとその時は・・・