暁の聖跡3

T i n y  D a y s

 



 

 

ともすれば、それは何気ない日常。

 

「なあ……」

「? なんだい?」

「俺のこと、どう思ってる?」

「・・・・・は?」

「だ・か・ら。俺のこと、どう思ってる?」

「……好きだよ? どうしたんだい、今更そんなこと改まって」

「いや……あんた相手の場合、たまにちゃんと確かめておかないと自信がなくなる」

「……君が、かい?」

「なんだよ、その何か言いたげな視線は」

「いやぁ……その筋では有名なヴォルト伯のお言葉とも思えない、気弱な台詞だと思ってね」

「悪かったな。有名なくせに意気地がなくて」

「そこまで言ってないじゃないか」

「大して変わらないだろうが。それに、自信がなくなるのはあんたのせいだぞ、あんたの」

「……なにかやったっけ?」

「別に、やってないけど。……というか、何も言ってくれないから不安になるんだ」

「ふふ……君が女遊びを繰り返しても、俺が文句ひとつ言わないからかい?」

「そうだよっ、悪いか!」

「……ロテール、君は、俺に妬いてほしくて浮気をしてるわけ?」

「そ、そういうわけじゃないけど……」

「なら、俺が文句を言わないほうが都合がいいじゃないか」

「だから、程度によるって何度も言ってるだろうが。あんたのは、放っておきすぎなんだよ!」

「自分の恋人が人気者っていうのは、喜ぶべきことだと思うんだけどな」

「そういう問題じゃないと思うぞ……」

「でもね、ロテール? そのことで俺に文句を言うのは、根本的なところで間違ってると思うよ」

「・・・・そんなことわかってる」

「ふふ、ようするに思惑が外れたから、拗ねて八つ当たりをしてるってわけかな?」

「・・・・・・・・」

「図星、ってとこ……っ……ん……」

「・・・・・・・・」

「……口で勝てないからって、なにも実力行使で口をふさぐことないんじゃないかな」

「−−−−キスしたくなったんだよ」

「キスねぇ……っ……まあ首筋にしたって、キスはキスだけどね。なら、この手は一体なんだい?」

「俺が主導権握れるのはこんな時ぐらいしかないんだから、黙ってろ」

「はいはい、伯爵様のお望みのままに……」

「嫌味なヤツ……」

「でも、ひとつ言わせてもらうなら……」

「なんだよ」

「バレないようにやるものだよ、浮気ってのは」

「・・・・・・・」

 

「俺みたいに、ね」

 

 楽しげな呟きを聞くものは、丘を渡る悪戯好きの風の精のみ。

 そして、それは咲きこぼれる花に隠された日常。

 



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