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 陽がのぼる。雲が流れる。星が瞬く。陽はかげり、月が輝く。

 

 風が渡る。水がさざめく。大地が謳う。そして、影がやすらぎをもたらす。

 

 

 

 

 

「ん……あれ? レン?」

「おはよう。目が覚めたかい?」

「ふわあ、よく寝た……って、おはようって言うにはちょっと陽が高くないか?」

「なんだったら『おそよう』でもいいけど?」

「嫌味ったらしく言わないでくれ」

「別に嫌味なんか言ってないよ? 俺が気にしてるのは、こんなに陽が高くなるまでこんなところにいてもいいのかな、ってことだからね」

「・・・・・・・え?」

「俺は今日は休みだから、ここでどれだけ惰眠を貪っててもかまわないし、君の寝顔を見ていてもかまわないんだけど……君はそういうわけにはいかないんじゃないかい、ロテール?」

「……そういうことは、最初に言ってくれるか?」

「人に期待するより先に、自分で気づくべきじゃないのかな?」

「う……でも、わかってるなら起こしてくれても……」

「残念ながら、俺にはそんな罪なことはできないよ」

「何が罪なんだよ、何が。寝坊してる奴を放っておくほうが罪だろうが」

「あんなに可愛い寝顔を見ちゃったら、とてもじゃないけど起こしたりできないよ」

「・・・・・・・あのな」

「それにロテールだって、俺を起こしてくれたことなんてないよね? お互いさまだよ」

「いや、それは、別に他意があったわけじゃなくてだな。見とれてただけなんだけど」

「何に」

「そりゃ決まってるだろ、レンの寝顔に」

「やっぱりお互いさまじゃないか」

「あ……あれ? で、でも、レンの寝顔って日頃の言動からは想像もつかないくらい、無邪気であどけないんだぜ? ついつい『ホントに同一人物か?』とか勘ぐるのは当然だって」

「悪かったね。普段はこんなので」

「別に悪いなんて言ってないだろうが。誰にでも簡単にだまされそうな人の良い寝顔してるくせに、中身は油断も隙もない笑顔魔人って言いたかっただけで」

「……まさか、それで誉めてるとか言わないよね?」

「半分くらいは誉めてるんだがなあ。これでも」

「もし本気でそう思ってるんだったら、言語学を一から学び直したほうがいいね」

「そこまで言うか?」

「そりゃあ、当然。燐光の聖騎士ともあろう者が言葉の使い方を間違えているようじゃ、先行き暗いからね」

「仮にも恋人に向かって、ひどい言いぐさだな」

「何言ってるんだい。それを言ったら、君のほうがさんざんなこと言ってるよ。あれが、自分の恋人に対する評価かい?」

「別にいいじゃないか、その性格直せって言ってるわけじゃないんだから」

「そりゃあね。直せって言われても、長い年月をかけて培ったものだからねえ。今更どうしようもないよ」

「なら、あきらめるんだな。それに、性格改善されても困るし……」

「どうしてだい?」

「俺は、今のレンの性格が好きだから」

「ふふ……本当に、かわいいこと言ってくれるよね」

「ちょ、ちょっと待て。この手はなんだ」

「言わないとわからないとでも?」

「わかるから聞いてるんだ」

「なら、そのまんまの意味だよ」

「って、待て……っ」

「待たない」

「……………っ」

「ところで……騎卿宮に戻るかい?」

「こーゆー体勢で聞くか、普通?」

「こういう体勢だから、と言ってくれるかな? この先に行ったら、しばらくは帰すわけにはいかないからね」

「ヤな奴」

「で、返答は?」

「……遅刻ついでに今日はもうサボリ」

「おやおや。不良聖騎士だね」

「ほっとけ。それに……」

「それに?」

「……レンがここにいるってことは、燐光騎士団の出番が必要になるような火急の用事もないってことだろう?」

「・・・・・・まあ、そうだね」

 

 

 

 

 

 影は泡沫。

 

 其は花園にたゆたう永遠の夢。

 


Fin…

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