「…………レン?」
「あれ? こんな時間にこんなところで会うなんて珍しいね。夜遊びの帰りかい?」
そんなことを言って振り返ったレンは、いつも通り近衛騎士の制服を着ていた。
時はすでに真夜中、日付変更線も越えている。この男はまた遊び歩いていたのだろうかと思っているところを逆にあっさり図星をつかれ、ロテールは一瞬言葉に詰まった。
このレンの問いはその他のマイナス感情をまったく含まない純粋な疑問だったりするから、よけい始末に負えない。同じことをやっているのになぜ自分ばかりが慌てなければいけないのかと理不尽なものを感じながらも、こればかりは開き直りきれないロテールが損をするのは仕方ないのことなのかもしれなかった。
「う・・・・そ、そういうあんたこそ、なんでこんなところにいるんだよ? しかもひとりで」
それでもなんとか続けたロテールの疑問は、首を傾げて目を瞬かせたレンの一言であっさりとうち砕かれる。
「誰かと一緒の方がよかったかな?」
「誰もそんなこと言ってないだろ!」
何かをごまかす、はぐらすのはレンの得意技だ。
たとえごまかす気がはじめからないとしても、なにかをスムーズに教えてくれることは少ない。目の前にいるおもちゃで遊ぶチャンスを逃すのはもったいないとばかりに、隠す気もないくせにわざと見当違いの方向へと話を進める。わざとやっているとしか思えないが、いちいちそれにひっかかるロテールも律儀といえば律儀だ。
今日もささいないたずらに予想通りの反応を示したロテールの表情をのぞき見たレンは、じつに楽しそうな笑みを見せると口を開く。
「はいはい……俺は仕事帰りだよ。君と違ってね」
「一言多いんだよあんたは」
「他意はないんだけどな。うらやましいと思っただけで」
しれっとした表情でこんなことをのたまうレンの顔を横目で盗み見たロテールは、こいつに繊細な人間のナイーブな心なんて絶対に理解できまいと心の中で呟いた。
それから、個人的な不満を口にしてみる。さほど期待はしていなかったが、言わないよりはマシ、どうせ言ってみたところでレンが堪えるわけがないという判断からだ。
「ほっとけよ。あんたがかまってくれないからだろ」
「じゃあ、かまってあげようか」
にこりと笑ったレンが、ふと腕を伸ばした。
自分よりも背が高いロテールの肩を引き寄せると、心持ち上向いて唇を重ねる。唐突なレンの行動に一瞬目を丸くしたロテールだったが、瞼を閉じると同時にとまどいと誰かに見られているかもしれないという懸念は、きれいさっぱり捨て去った。
肩に置かれたレンの手に、自分の手を重ねる。もう片方の腕をレンの腰へと回すと、口元でクスッとレンが笑った気配がした。
洩れる笑みをすくい取るかのように、深く口づける。ため息も吐息も飲み込んで、ひとつに溶けあった。
闇は、すべてを隠す。束の間の逢瀬を楽しむふたりを、優しく包み込んで。 |