月に叢雲 花に風




 

 

 

見覚えのねェ天井---

ここはいったいどこだ。俺はどうしちまったってんだ。

確か---

御門にいい酒が手に入ったからと呼び出されて、時空の狭間にある浜離宮へとやって来て、酒を酌み交わして・・・

・・・そっから後の記憶がねェ。

その時、まだぼーっとする頭で必死んなって考えてた俺へ、冷たい声がかかる。

「やっと目覚めたようですね、村雨。あなたならもう少し早く気付くと思いましたが。・・・まあいいでしょう。」

「み、御門!!てめェ!!」

いつもの涼しい顔の御門へと掴み掛かろうとして、気付く。う、動けねェ!!

そう、その時の俺の格好といや、素っ裸で腕を背中で括られ、布団の上に転がされてる状態。

「な、なんだこれは!!早くほどきやがれ!!」

必死に括られた腕を動かそうとするが、まったく解ける気配がない。

「無駄ですよ。その縄は『幌金縄』といって、麻痺効果があるものです。いくらあなたでも自分では解けないでしょう。」

一体何だってんだ。なんで俺がこんな目にあわされなきゃならねェ。

俺が睨みつけると、コイツは俺の視線をさらっと受け流し、とんでもねェ事を言い出した。

「あなたに芙蓉の教育の手伝いをして頂こうと思いまして。・・・あなたの事ですから、素直に手伝ってはくれないでしょう。ですから、一服盛らせて頂きました。」

一服盛ったァ?・・・あの酒か!!

ちきしょう!!あの酒に『麻沸散』かなにか入れやがったのか!?・・・そ、それにしても、

「なんだその芙蓉の教育ってのは!?それと俺に対するこの仕打ちとどういう関係が有るってんだ!!」

俺の怒鳴り声に眉を顰めながらヤツは、廊下へと顔を向け、障子の向こうへと声をかける。

「芙蓉。お入りなさい。」

閉められていた、障子がスッっと音もなく開き、月明かりを背景に一人の女が座っているのが見える。

「失礼致します、晴明様。」

その女・・・御門が使役する式神、十二神将が一人「天后芙蓉」が、御門へと頭を下げ、静かに部屋へと入って来る。

芙蓉は転がされてる俺の前まで来ると、その場へ腰を下ろした。

・・・いくら式神で感情がねェとはいっても、見た目はすこぶるの美女だ。その冷ややかな目で見下ろされ、俺はらしくもねェ羞恥に捕われる。

「・・・ご覧の通り、芙蓉は式神。感情の波と言うものに乏しい・・・。ですがそれではつまらないと思いませんか? どうせならもう少し人間味のある感情を、と思いましてね。」

御門の言いたいことがさっぱりわからねェ俺は、コイツが説明している間もなんとか縄がほどけねェかともがくが、まったく緩まない。

「あなたもあきらめが悪いですね。・・・人がいだく感情の中で強いもの、と言えば、恐怖と歓喜、それに欲望。欲望としては、食欲、睡眠欲、そして性欲が不可欠な物として上げられます。しかし、さすがに食欲や睡眠欲は式にはあってもまったくの無意味。ですから、芙蓉には、人間の性欲というものを理解してもらおうと思いまして。」

・・・はァ?

御門の発言に俺の動きが止まる。頭の中で今の言葉がぐるぐるとまわり出す。

「で、それでなんで俺がこんな格好で転がってなきゃならねェんだ。」

「・・・まだわからないのですか。私があなたを抱いている所を芙蓉に見せて、性欲と言うものを理解させるんですよ。」

・・・・・・・・・・・・な、何ィ!?

「ちょ、ちょっと待ちやがれッ!!何で俺がてめェに抱かれなきゃならねェんだ!!・・・第一オメェが芙蓉を抱けばそれで済むんじゃねェか!?」

「言ったはずですが?芙蓉には『性欲と言うものを理解してもらう』と。いきなり自分に与えられたものでは上手く理解することは出来ないでしょう。やはり先に、他人が与えられる快感を享受しているところを見せないと。それに・・・」

思わず絶句しちまった俺へと、コイツはダメ押ししてくる。

「それに・・・、あなたが相手なら羞恥心というものも一緒に理解させられますからね。」

 

「ん・・・はぁ・・・んんっ」

激しい口付け。舌を絡め取られ、歯茎をなぞられて息が継げず、俺の頭が痺れ出す。

---こ、コイツどこでこんなキス覚えやがった!?

今まで何人もの女、時には男を抱いて来た俺を、御門はいとも簡単に追い詰めていく。

御門は未だ服をきっちり着こんだまま俺の上に多い被っている。

涼しげな顔。乱れた様子のない、その表情が俺を苛立たせる。

俺の胸元へと彷徨わせている左手が、時折胸の突起を掠めると、俺の身体は自分の意志とは無関係に快感にうねる。

「くっ・・・やめ・・・ろ・・・」

「おやおや、ここまできてまだ抵抗する気ですか。まぁ、その方が芙蓉の教育には都合がいいですが。」

薄笑いを浮かべて俺を見下した御門の唇が、その突起へと辿り着く。

「はっ・・・・んん・・・くっ・・・」

必死で噛み殺しているはずの口からは、紛れもない喘ぎが漏れていく。

「ふふふ。思っていたよりずっと敏感なんですね。」

どこか嬉しそうに呟く声に、俺の身体がカッと熱くなる。

---思っていたよりって・・・そんなこと思ってやがったのか、コイツは!?

外から入りこむ月明かりの中、御門によって与えられる快感で悶える俺と、それを少し離れて静かに見つめる芙蓉。

「・・・はぁ・・・っ」

突然俺の口からひときわ大きな声が飛び出す。

御門が俺の股間へと手を伸ばしたのだ。

自分でも信じられねェが、コイツの愛撫によって俺の分身はすでに頭をもたげていた。

唇は俺の右の突起を、左手は左の突起を、そして右手は俺の股間を這う。

3ヵ所を同時に攻めたてられた俺は、もう自分では押さえきれなくなった快感で、ひっきりなしに声を上げちまう。

「くぅ・・・あぁ・・・んん・・・は・・・ぁ・・・」

「驚きましたね。あなたがこんなに快感に弱いとは・・・。」

御門の手によって育て上げられた俺の股間は、痛いくらいに張り詰めて、先からしずくを垂らす。

「うる・・・せ・・・ェ・・・」

「ふふ。まだ減らず口を叩く余裕があるのですね。・・・まぁ、いくら夜はまだ長い、といっても私もいつまでもこんな不毛なことを続けていたくはありませんからね。」

そろそろ終わらさせてもらいますよ。

そう呟くと、御門はじっと俺の顔を見つめていた芙蓉へと声をかける。

「芙蓉。『あれ』を持って来なさい。」

「御意。」

始めて見る、どこかぼんやりした表情の芙蓉は、御門に命じられ、部屋を離れた。その目元がほんのりと赤かったようなのは俺の気のせいか・・・?

「さて。」

御門は俺から離れると、自分のズボンからベルトを抜き、前をくつろげる。そこからそそり立つ物・・・

---でけェ・・・。

その大きさに思わず俺は見入っちまう。コイツ、俺とタメ張れるくれェの大きさじゃねェか!?

ちょ、ちょっと待て・・・って事は、まさか「これ」が俺の中に入ってくるってのか!?

冗談じゃねェ!!

今まで突っ込んだ事はあっても、突っ込まれた事のねェ俺は、信じたくはねェが恐怖に駆られて、慌てて逃げようとする。だが、腕が縄で括られたまま。布団からはみ出ることすら出来やしねェ。

しかもそこへ芙蓉が、手に何か液体の入った瓶を持って戻って来る。

御門は芙蓉から瓶を受け取ると、俺の身体を無造作に裏返す。

「これは『人魚の膏油』と呼ばれるもので、本来なら精神力を高めるための道具なのですが・・・。切れては後が面倒ですからね。これを使わせてもらいます。」

コイツは、俺にとってはどうでもいいような説明をした後、瓶の蓋を取り、俺の尻の上で傾ける。

「うっ・・・」

尻の狭間を伝う冷たい感触に、無意識に声が漏れる。

その直後感じた指の感触に俺の身体がすくむ。俺のとは違って細く、しなやかな指は、かけられた膏油を塗り込めるように襞の周りを彷徨う。

「くっ・・・」

俺の口から不本意な声が上がる。御門が指を突き入れたのだ。

膏油の所為か、痛みはねェが、沸き上がる不快感は消せねェ。

だが、ゆっくりと広げるように、襞を掻くように抜き差しされると、不快感は快感へと少しずつ変化していく。

「うぅん・・・あ・・・んん・・・」

いつのまにか俺の口からは、再び喘ぎが漏れ始めていた。

「もうそろそろいいでしょう。」

そう呟いた御門は、俺から指を引き抜く。その瞬間、離れていく指の感触を惜しんでいる自分に思わず呆然となる。

だが、そんなことを考えている余裕など俺にはなかったのだ。

「ぐぅあ・・・・っ」

確かに痛みはねェ。だからといってこの圧迫感---内臓を押しつぶされるような感覚まで消えるはずがねェ。

御門の太い楔に背後から貫かれた俺は、沸き上がるその感覚を、歯を食い縛って耐えるのが精一杯だった。

だがその楔は、膏油に助けられてるのか、難なく俺の最奥まで到達する。

「・・・どうですか?村雨。他人に貫かれた感想は。」

「ば・・・かやろ・・・はぁっ」

くそでもねェこと聞いて来るんじゃねェ!!

そう続けようとした俺の口から出る言葉は、始まった律動によってうめき声になる。

最初はゆるやかに、だが徐々にリズミカルになる腰の動きに、俺は知らず翻弄されていく・・・。

最奥のある一点を突かれた時、ついに俺の股間はその欲望を吐き出してしまった。

そしてその瞬間の俺の締めつけによって、御門も俺の最奥へと欲望を迸らせた。

「ぐぁっ・・・」

ぐったりとなった俺の尻から、ズルッという音と共に柔らかくなった楔が抜かれる。

「ふぅ。まぁ、なかなか楽しませて貰いましたよ、村雨。」

身体に残る余韻に、荒い息を継いでいる俺から離れ、御門は衣服を整えていく。

「もう・・・いい・・・だろ。早く・・・縄を・・・ときやがれ・・・。」

あっというまに元の姿に戻った御門は、俺を冷たく見下ろし、再びとんでもねェ事を言い出す。

「何を言ってるのですか。あなたにはまだ協力してもらわねば困りますよ。」

「な、なにィ?」

ま、まだ何かあるってェのか?

「芙蓉。」

御門は芙蓉を呼び寄せると、俺にはまったくわからねェ呪文を唱え始めた。

すると芙蓉の身体がぼーっと光り出し、変化していく。

式神から実体化する時とも違うその変化・・・。光が収まった時、芙蓉の居た場所にあるものは・・・

い、いや”もの”じゃねェ、人・・・。はだけた着物から覗く薄い胸板。どことなく御門に似てやがるその姿。

そう、芙蓉は紛れもねェ、男になっちまったんだ。

「どうです?始めて見たでしょう。芙蓉の男性形を。」

「ど、どういうこった!?これは?」

「どうもこうもありませんよ。芙蓉はもともと式神。性別の無い式神を、男性形だろうが女性形だろうが、自在に変化させることなど容易いことです。」

呆然と芙蓉を見つめる俺へと一瞥をくれると、御門は冷たく言い放つ。

「いつもそばに居させるのなら、むさ苦しい男よりも女性の方がいいのは当然でしょう。・・・さて、芙蓉。次はあなたが実践する番ですよ。」

「御意、晴明様。」

声まで御門に似ている芙蓉が俺へと近づく。

「な、何だ?実践ってなァどういうこった?」

「決まっているでしょう。今度は芙蓉があなたを抱く番だ、と言うことです。・・・もちろん最後まで協力してくれますね?」

その言葉に反論をしようとした俺の唇は、芙蓉の唇によって塞がれる。

「ああ、一つ言い忘れました。芙蓉は式神ですから、精がありませんので。あなたには行ける所までとことんつきあってもらいますよ。」

 

 

---その夜、次元の狭間の浜離宮では、野太い男の喘ぎ声が、一晩中続いたという・・・。

 


←■虚構文書