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その日、僕は大切な店の商品を壊してしまった。そいつを持ったまま、鳴り出した携帯に出たためだ。 「ひーちゃんが・・・ひーちゃんが、瀕死の重傷なんだ!!」 かしゃーんという音が、店に鳴り響いた・・・。
電話をもらってすぐ、僕はここ、桜ヶ丘へとかけつけた。 「一体何があったんだ!」 病院内だというのに、思わず叫んでしまった僕に、醍醐が説明をしてくれた。柳生宗崇---それが、龍麻に傷を負わせた男の名だと・・・。
しばらくして数人が病院へと駆け込んできた。他の仲間にも連絡をとっていたらしい。壬生や藤咲、雨紋達---彼らの顔は一様に蒼ざめ、唇が震えていた。きっと今、僕も同じ顔をしているのだろう。 ---どこかですすり泣く声も聞こえる。 そのとき、フッっとランプが消え、静かに手術室のドアが開いた。駆け寄る僕たちに岩山先生は、その巨体に疲れをにじませ、「なんとか、一命は取り留めた。」と、告げた・・・。
岩山先生と、高見沢に病室まで運ばれた龍麻は、薬が効いているらしく、まだ眠っていた。 「一体今、何時だと思ってるんだい。しかもこんなに大勢で。病室で騒ぐんじゃないよ、まったく。付き添いは1名だけだ。女どもは親が心配するだろうが。帰った帰った。」 結局、家族が心配するだろうからということで、一人暮らしの僕が、付き添いに着くことになった。美里は最後まで未練たっぷりだったようだが。
静かな部屋の中、時計の針が時を刻む音だけが聞こえる。カーテンのすき間から、部屋に差し込む月明かりが龍麻の顔を照らす。---どことなく苦痛をにじませたようなその顔は、青白く、まるで死人のように見える---胸がひどく痛む。僕の心の中で、憎しみと悲しみが渦巻く。 他人に対してこれ程の憎しみを覚えたことなど、かつてなかった。こんな龍麻の姿を、僕に見せた柳生という男---姿を知らぬその男の刃が、龍麻を貫く瞬間を思うと、心に闇が沸き上がり、僕を追い詰める。 そうしてやっと気づいたのだ。僕にとって、彼、龍麻こそが、「陽(ひかり)」なのだと。人は陽光なくして、生きて行けない。僕は彼を失っては生きて行けないのだ。
しばらく手を握り締め、静かに目を閉じていた僕の耳に、かすかなうめき声が聞こえた。 「!! 龍麻!気がついたのか!?」 はっと顔をあげた僕は、龍麻の顔を覗きこむ。 「!! うあっっ!!」 「龍麻!!まだ動いたらだめじゃないか!!」 突然襲った激痛に、再びベッドに倒れ込んだ龍麻を寝かせると、シーツを掛けなおす。 「こ、ここは?」 痛みのせいか、完全に意識が戻ったらしく、首だけを巡らせ問いかけてきた龍麻に、僕は安堵にふぅ、と息を継いだ後、答えた。 「本当に、無事でよかった・・・。心配しなくてもいい、ここは桜ヶ丘だよ。・・・今は何も考えずに、少し休んだほうがいい。」 「美里や京一達は!?」 「ああ、大丈夫、彼らなら怪我一つないよ。もう遅いからね、岩山先生がひとまず家に帰したんだ。」 「そうか・・・。」 ほっとしたのか、龍麻は体の力を抜き、ベッドへと沈みこんだ。なんだかそんな仕草が痛々しくて、思わず彼から眼をそらしてしまう。 「今、岩山先生を呼んでくるから、少し待っていてくれ。」 ベッドから離れ、腰を浮かせた僕に、 「待って!!」 と、沈痛な声が掛かる。 「どうしたんだ、何かして欲しいのかい?」 「・・・・・・側にいてくれないか・・・」 涙で潤んだような眼差しで、僕を見つめ呟く龍麻。どうしようもない程の愛しさが込み上げてくる。 「・・・君が、そういうのなら。もうしばらくここにいるから、…安心して眠るといい。」 不安ならこうしているから・・・そうして再び龍麻の手を握りしめる。 ---だが、本当は違う。不安なのは僕の方。君を感じていないと、この心の闇から抜け出せない。 そんな僕の心の内には気付かない龍麻は、僕のその言葉と、手の温もりに安心したのか、再び眼を閉じ、眠りへと落ちていった。
規則正しい寝息が漏れ出した頃・・・。先程とは違う穏やかなその寝顔に、僕はそっと近づき、髪に触れる。そうして、額へ・・・まぶたへ・・・頬へ・・・そして、唇へと口付けを落としていった。 青白い月明かりの下、僕は君の耳元で静かに囁く--- |
The End