Magical Eyes

 


 

「なあ……」
「お前が俺にカードで勝てると思っているのか?冗談もほどほどにしな。」
セッツァーは、からかうように言う。まるでロックを挑発しているようだ。
すると、ロックはやっぱり挑発に乗ってくる
「俺がお前に負けるはずがない、なんならやってみるか?」
セッツァーは心の中で、自分のたくらみが成功したことに気をよくしている。
「それじゃ、何で勝負する?ポーカー?ブラックジャック?何でもいいぞ?」
余裕の笑顔をみせながら、どうするんだ?と聞いてくる。
「それじゃ、ポーカーにしよう。勝負は三回、先に二本獲った方が勝ちだ。」
ロックは、なんをやっても俺の勝ちは決まってる!なんて言うから、
「それじゃ、何かを賭けないとつまらないな。お前は何を賭ける?」
「えっ?」
ロックは、そんなことを予想もしていなかった。ただの遊びじゃないのか?
「男同士の勝負だ、何も賭けないんじゃつまらない。」
セッツァーは、”どうする、やめてもいいんだぞ?”なんて言うから、
ロックは、もう後には引けない。
「よし、いいだろう…」

 

 

なんでこんなコトになったのか、それは他愛もない理由だ。
暇つぶしのルーレット、そこにはロックとセッツァーの二人がいた。
セッツァーの方は、ギャンブラー独特のカンでなかなかの成果をあげていた。
しかしセッツァーの正面に座っているロックは、どうも調子が悪い。
そんなロックをみて、セッツァーは
「調子が悪いようですねぇ、トレジャーハンターさん?」なんてからかうから…
「それなら、カードで勝負してみるか?」なんてことに…

 

「そうだなぁ…」
ロックが考え込んでしまっているので、セッツァーは
「俺が負けたら、この艇をお前にやろう。そのかわりお前が負けたら…」
「負けたら…?」
「セリスと、一日デートだ!」
なんてことはないだろう? なんて笑いながら言う。だって俺なんかには負けないんだろ?
そんな風に言われると、ロックはもうどうしようもない…
「わかった、いいだろう。それじゃあポーカー三本勝負だな。」
「ああ。それじゃ、ディーラーは…」と言ってあたりを見回す。おっ、丁度いいのがいた。
「エドガー、こっちへ来てくれないか?」
セッツァーが、エドガーを呼ぶ。一緒にいたマッシュはこちらを仏頂面で見ている。
セッツァーが、悪いなと目で言うと、マッシュは仕方なさそうにお茶を飲む。
「ディーラーがエドガーなら、イカサマはできないからな。」
まるで、もう言い訳はできないぞ!とセッツァーが言うみたいだ…
「どうした?、セッツァー」
エドガーが、用事はなんだ?と聞く。
「3ラウンドだけ、ポーカーのディーラーをやってほしいんだ。いいかな?」
セッツァーが聞くと、別にかまわないよと、答えが返ってくる。
「それじゃ、はじめようか…」
カードが配られはじめる。カードの切られる音が、緊張感を煽る。
二人にカードが配られる。ロックが、セッツァーの表情を盗み見ようと、視線を少し横に向ける。するとそこには…

ポーカーフェイスのセッツァー。その目は勝負師の目…
その目は、冷たく涼しげな光をたたえている。冷静に状況を見つめている…
しかしその瞳の奥には、激しく燃える勝負師の心。ひたすら勝ちへと向かう、激しすぎるほどの闘争心…

「カードを交換する?」エドガーが訊く。
「2枚…」セッツァーが交換を求める…表情は変わらない
「3枚…」ロックもカードを交換する。
しばらくの沈黙…
「スリーカード…」セッツァーが言う。
ロックは、落胆の表情を見せて…
「ツーペア…」
「まずセッツァーが一勝だね。」エドガーは状況を確認して2ラウンド目に入る。
さっきと同じ手順で、カードを配る。
もう一度、さっきと同じように、表情を盗み取ろうとするロック。
しかし、さっきと同じようなポーカーフェイス…
「えっ?」

 

一瞬、セッツァーと目があった…
その瞬間、セッツァーが少し微笑んだような…?
今まで見たこともない表情、あんな顔で笑うことがあるのか…
すごく不思議な笑顔…まるで吸い込まれそうだった…

「3枚、換えてくれ…」セッツァーが柔らかい語調で言う。
「俺は1枚だけ…」ロックは、充分な役があるのか?
さっきと同じような沈黙…
「スリーカード…」さっきと同じ表情…
「フルハウス…」一つ勝った…
「さあ、これが最後だね…」
エドガーも念入りにカードを切る。
最後も、さっきと変わらない手順で、カードが一枚一枚配られる。
ロックは、なんだか怖くて、セッツァーの顔を見ることができなかった。
あの吸い込まれそうな表情が、怖くて…

「2枚換えてくれ…」セッツァーは、珍しく感情の動きを表に出して言った。
まるで何かを、決断したかのように…
「俺はいい…」ロックは、もう充分な手があるようだ。
ロックが先にオープンする
「ストレート…」ロックは勝った、そう思った…
しかし、セッツァーは…
「ストレート…フラッシュ!」

セッツァーは満面の笑みで、ロックの肩に手をやった。
「いい勝負だったなぁ、ロック?」
ロックは、もう声が出ない…
「あれ、どうしたのお二人さん?」
そこに現れたのは、今ロックが一番会いたくない人の声…
「ああ、セリスか。ちょっと面白い賭けをやっていたんだ。」
セッツァーが、機嫌の良さそうな声で答える。
「それでセリスは、ロックが何を賭けたと思う?」
セリスは、少し考えてみるが…
「私には、わからないな…なにを賭けたの?セッツァー、教えて」
「それじゃ、言うけど…ロックが賭けたのは…うわっ!」
ロックが、いきなり後ろから口をふさぐ、今にも泣き出しそうな顔でそれだけは言うな!と言っているみたいだ。そんなロックの顔はたまらなくかわいい…
「ちょっと待ってね…」
そう言って、隅の方へ行って話す二人…
「どうした?言ったらダメか?」セッツァーが意地悪く訊くから、
「頼むから…言うなっ…」すがるように頼み込むロックが、なんだかかわいそうだ…
そんな風に泣かれると、セッツァーは困ってしまう。
「それじゃ、どうする?…」セッツァーは、言う。
そして、セッツァーは何かを思いついたように言う。
「今回の勝負、引き分けにしてやってもいい…」
そしてセッツァーは、いきなり優しい声で…
「それに、ロックの方がいいや…」
そうささやくと同時に、優しいキスを落としていく…
真っ赤になって、立ちすくんでいるロックを満足そうに見ながら、
セッツァーは陽気な笑い声をあげながら、自分の部屋へと戻ってしまった。

 

 

「なんで俺がお前なんかと一緒に出かけなきゃいけないんだ?」
ロックが、セッツァーに向かって文句を言う。
しかしセッツァーには、最大の武器がある。
「俺は、別にいいんだぞ。賭けのことを言ったって…」
すると、ロックは何も言えなくなってしまう…
「クソっ!、あんなバカなことするんじゃなかった…」
ロックが、文句ばっかりいうからセッツァーは、
「過ぎたことをウダウダ言うな!お前らしくない!」
あっ、つい言ってしまった…
「えっ?なんだ、いまのは…」
ロックが驚いたような声を出す。
「とにかく、一日だけなんだから、大人しく付き合え。いいか?」
セッツァーは、どうにかしてごまかす。

ロックにこんな気持ちを知られたら…きっと嫌われるだろうから…
自分らしくないと思うけれど、その人を失うのが怖かった
たった一つの心の安らぎだから…

ずっと一人だった、どんなときも…
一人だから、自分で自分を守らなければならなかった…
だから、ずっと気持ちを張りつめていて…
気持ちがやすらぐなんてことはなかった…
ずっと一人でいたから、
そんな心の安らぎを求めることさえも、許されなかった…
だけど、今は
手の届くところに、それはある。

 

「まず、どうしたい?」
セッツァーがロックに訊く。
「どうしたい?っていってもなぁ…俺は誘われたほうだしなぁ、お前に任すよ」
そう言われるとセッツァーは困ってしまう。人と、どこかへ行くと言うことになれていない自分だから、よけいに困る…
「悪いな、ロック。俺、あんまりこういうことになれていないから…」
するとロックは、セッツァーをからかうように
「そう言えば、お前ってなんか友達少なそうだもんなぁ」
と、笑いをかみ殺しながら言うから、
「うるさいなっ!悪かったな、どうせ俺は人付き合いが下手だよ…」
最初は語調を強めて言ったが、やっぱり落胆は隠せない…
ロックは困ってしまって、
「悪かったよ、セッツァー。からかっただけだよ」
しかし、セッツァーの表情は変わらないから、
「まったく、いつまでそんな顔してるんだよ。今日は俺がいるから、そんな顔するなよ」
それを聞いて、わかったと言うように微笑みを返してくれた。
すごく綺麗な、吸い込まれそうな微笑み。そう、あの時のと一緒だ…
そんな微笑みを返されて、ロックはその表情に見とれてしまった。

 

 

一緒にいる時間が多くなるにつれて、お互いの堅さがとれていく。
少し太陽が傾く頃には、いつもの二人の関係に戻っていた
久々だ、こんなに幸せな気分になったのは…
ロックも、すごく幸せそうな笑顔を自分にくれていた。
無邪気な、子供のままのようなものすごく綺麗な笑顔を…
あの笑顔を、ずっとそばで見ていられたらどんなに幸せだろうか…
あの笑顔に、どれだけ助けられるだろうか…
あの笑顔を、誰にも渡したくないと思った…
ロックは、この自分の想いをわかってくれるだろうか…
ロックは、きっとわかってくれるはず…そんな希望を持ちながらブラックジャックへ戻る道をロックと一緒に歩いていた

 

一方ロックは、ブラックジャックに戻る間、自分に疑問を持っていた。
なんで、こんなにセッツァーの顔が頭から離れないのか?
なんで、あの微笑みが鮮明に記憶に残っているのか?
そして、今日セッツァーと一緒にいて、なぜこんなにも幸せな気分なのか?
こんなこと、今まで一度もなかった…
レイチェルやセリスといても、こんな気持ちにはならなかった…
不思議な感覚、手放したくないと思う気持ち、これが何なのかわからない…
こんな気分は初めてだった…

 

 

ブラックジャックに戻ってから、ロックはセッツァーの部屋で休んでいた。
セッツァーが、もうちょっと一緒にいろと言ったから。
普通はさっさと自分の部屋へと戻るはず、だけど今日はなんだかここにいたい気分だった
「ロック、今日は疲れたか?」湯気の立っているティーポットとカップを持ってきたセッツァーが、微笑みながら訊いてくる。今日何度に見た表情か?
この笑顔を見ているときが、一番幸せだと感じるロックは、今日はおかしいのだと思う。
「ああ、ちょっと疲れたな…」ロックは答える。
「もう、戻ってしまうのか?」セッツァーが寂しそうに言うから。
「もうちょっとだけ、いてやるよ…」ちょっと微笑みながら言ってやると、
すごく嬉しそうな笑顔を返してくる。そんな笑顔のせいで、ロックは少し照れてしまう。
ただ一緒にいると言うだけで、こんなに嬉しそうな顔をしてくれるから。

 

セッツァーは、葛藤の中に立たされていた。
愛している人のすべてを手に入れたいと思う気持ちと、
この人を傷つけてしまって、失いたくないと思う気持ちの間に…
だけど、失うことを怖がっていては、何も生まれない。
チップを賭けなければ、それ以上に増えることはない。
想いだって、伝えなければ…その想いへの答えは返ってこない…

 

 

「ロック、近くに来てくれないか?」
セッツァーは、心を決めてロックを呼んだ。
「どうした?」
ロックは、なんだか怖さを感じながらも、セッツァーの隣に腰掛ける。
セッツァーは、ロックの目をみてこう言った。
「お前の人生のチップ、俺に全部預けてみないか?」と…
セッツァーの唇が、ゆっくりと、ロックの唇に降りてくる…
何が起こっているかわからないくらい、優しく、丁寧な口づけ
しかし、セッツァーの目は、その優しさとは裏腹に激しく燃え上がっている。
その目はあの時、とは違う。
ロックに対する熱い想いが、身体全体からにじみ出ているようだ…
その、スマートな容姿とは正反対の力強い腕に、しっかりと抱かれている。
なんでだろう、抵抗できない…
相手は、セッツァーで、相手は、自分と同じ男性であるはずなのに…
その目に、理性もなにもかも、吸い込まれていた。
そして、あの不思議な感覚の正体が分かった気がした…
ああ、きっと自分はセッツァーが好きなんだ…
ロックは、そしてセッツァーは、お互いの感情の渦に飲み込まれる…
二人は、深い深いキスの海に溺れてしまった…

 

ロックは涙を流していた。うれしくてうれしくて、こんなに誰かに想われている自分がうれしくて…
しかしセッツァーは、勘違いして
「ごめん、ロック。謝るから泣かないで…」
たぶんセッツァーは、自分が傷つけてしまって泣いているのだと思ったのだろう。
だから、ロックは
「違うんだ…俺はうれしくて、セッツァーに愛されてることがうれしくて…」
今まで、ずっと人を愛し続けてきて、ちょっと疲れていたのかもしれない。
こうやって愛されるのも、なかなか心地がいい。
こうやって、セッツァーの腕に抱かれているだけで、すごく幸せだ…
「そうか、よかった…」
セッツァーは、安心したような顔をして、ロックの頬に優しいキスをする…
ロックはすごくうれしそうな顔をして、セッツァーの耳元でこうささやいた…
「俺の残りの人生のチップ、全部セッツァーに預けるよ…」

 

セッツァーは、あの微笑みでロックのすべてを手に入れる…
ロックも、その綺麗な笑顔で、セッツァーのすべてを手に入れる

 

fin

あとがきと余談

 

すごく抽象的な文章になってしまって、自分らしくないと思いました。
その理由は、このカップリングを書いたのが初めてだからと思います 
まだ、自分の中に二人のしっかりとしたキャラクターが出来ていないから、こんなに意味の分からない文章になってしまうのだと思います。
まだまだ、修行が足りないなぁ…

さてここからは余談です。
今まで、私が投稿した作品を読んでいただいた方には、わかると思いますがしつこくしつこく、目と笑顔という部分を強調しているのがわかるはずです。
よく、こう言う書き物には書いている人の精神状態や性格、好みなどがしっかりと出るという話をよく聞きます。 
私もその例に漏れず、目と笑顔を強調してしまうのには訳があります。
その二つのポイントは、私が人を見るときに必ず注意する点です。
だから、その二つの部分がしつこいぞ!と思った人は、”ああ、こいつは、こう言う理由でこのポイントを強調するのか”と思いながら読んでみると、こう言うヤツなんだとわかっていただけると思います

それでは、またお会いできる日を願って…


<虚構文書>