「京一!! 早くしないと置いて行くぞ!」 聞き覚えのあるその声。まさかこの広い東京で、再びその声に巡り合えるとは思っていなかった俺は、声の主の姿を求め、辺りを見回す。 「なんだよォ、ひーちゃん。少しくらい待ってくれてもいいだろッ。」 「もうッ、京一ったら、男のくせにだらしないなァ。」 「うっせェ! 俺はお前と違って華奢なんだよッ」 学生服を来た5人組。その中にあいつはいた。 別れた時と変わらない姿。でも表情は、俺の知っているあいつの顔よりもずいぶん柔らかい印象。 「龍麻・・・。」 俺はあいつに近づいて声をかける。 それが、俺とあいつ、緋勇龍麻との約半年ぶりの再会だった・・・。
「いいのか? 一緒に行かなくても。」 俺と龍麻の二人は、近くにあった公園へとやって来ていた。こいつは昔から、緑のある場所が好きで、俺たちがなにか話をするときは、いつも公園でだった。 今はもう木枯らしの舞う季節。他に人影もない。 「ん? ああ、あいつらならいいんだ。特に大事な用があったわけじゃないからね。それより、本当にひさしぶりだなぁ。みんな元気にしてる?」 屈託のない笑顔。半年前にはめったに見ることのできなかったその表情を、いとも簡単に俺に見せる。 「ああ、お前が転校していってから、何にも連絡ないんで、結構心配してたんだぞ。」 「ごめん・・・。まあ・・・いろいろあってね。そういう余裕があんまりなかったんだ。」 龍麻はその整った眉をしかめて、ちょっと辛そうに答える。 俺の知らない龍麻・・・。俺はずっとこいつと一緒だった。人当たりがよくて誰からも好かれ、女の子にもよくもてていた。 だけど俺だけは知っていた。こいつが誰とも一定以上の距離を保っていたのを・・・。テリトリーを侵す者には、容赦がなかった。いつも笑顔だったけど、本心からの笑顔なんてめったになくて。俺はガキの頃からの付き合いだから、他のヤツらよりは近くにいることを認められてたけれど。 それが俺にはどれほど嬉しかったか・・・。 小学校、中学校、高校と同じ時を過ごし、これからもずっと変わらず、龍麻は俺の隣にいるのだと思っていた。だけど、 『俺、東京へ行こうと思うんだ。』 ある日告げられたその言葉は、「永遠」などというものは、どこにもないのだと、俺に思い知らせた。 ・・・理由は何も教えてくれなかった。 「それにしても本当に驚いたよ。急に声をかけてくるんだから。こっちへは何か用があったのか?」 俺が過去の思い出にふけってる間に、再び笑顔に戻り、訊ねてくる。 「ちょっとな。・・・今度受ける大学の下見に来たんだよ。」 「え!? じゃあ春からこっちなんだ。」 「受かったら・・・だけどな。」 「大丈夫だって! お前、国立でも行けるって先生に太鼓判押されてただろ?」 「まあな。だけど、受けてみなきゃわからないだろう?」 「まぁ、確かにね。」 くすっと笑ったその顔。思わず引き寄せられる瞳。俺の欲しかったもの・・・
「そうだ、こっちに来るってことは彼女はどうするんだ?」 「彼女?」 「ほら、お前1年のコと付き合ってたじゃないか。」 「・・・ああ、とっくに別れた。」 「またぁ? ・・・お前、いくらモテるっていっても、そんなことばっかりしてると、そのうちに女のコ達に総スカンくらうぞ。」 肩をすくめ、俺を睨む龍麻。こいつは、こういうところは真面目だから。 「別にかまわないさ・・・」 そう、あんな女共なんかどうだっていい・・・ 「お前ってさぁ、本気で好きなコとかいないのか?」 ・・・本気で好きな・・・? 「・・・いるよ、本気で好きな奴なら・・・。好きだって言えないくらい、好きな奴が・・・。」 「え!? それって俺の知ってるコなのか!?」 俺は、驚きに顔を近づけてきた龍麻の腕を掴む。 「ああ・・・お前もよく知ってる奴だよ・・・」 そうして、俺は龍麻を引き寄せるために、腕に力を込めた。
だが、その瞬間、後ろの茂みの中から男が飛び出し、俺に掴み掛かって来る。 「うわっ!!」 「て、てめェ! 俺のひーちゃんに触るんじゃねェ!!」 赤い髪のその男、こいつはさっき龍麻と一緒にいたヤツじゃなかったか・・・? 『俺の』ひーちゃん? 「きょ、京一!! なんでお前がここにいるんだよっ!!」 「なんでって・・・ひーちゃんが俺の知らねェ男と二人っきりでどっか行っちまうから心配で・・・」 「何言ってるんだよ! こいつは俺の幼なじみで、そんなんじゃないんだってばっ!」 「今こいつ、ひーちゃんに触ってたじゃねェかッ!」 俺は呆然と二人の会話を聞いていた。この内容は、どう考えても痴話喧嘩としか思えないわけで・・・。 「龍・・・麻・・・?」 俺が呼びかけると、突然俺の存在を思い出した様に、慌てて弁解を始める龍麻。 「あっあのっ! これは、そのっ・・・!」 一体これは何事だ? 「よっし! ひーちゃんがはっきり言わねェなら、俺がはっきり言ってやるッ!! こいつは俺の恋人だ!! 指一本触るんじゃねェ!!」 ・・・こ、恋人? ・・・龍麻が? 「龍麻? 本当なのか?」 俺が問いかけると、龍麻は真っ赤になって俯いてしまった。 俺の知らない龍麻の顔。そんな表情は今まで一度も見たことなかった。 だから、その時俺は唐突に悟ったのだ。・・・龍麻の変化の理由を。 俺はさっき一緒だった他の4人との付き合いが龍麻を変えたんだろう、そう思っていた。 多分それは間違っていないのだろう。だけど、何より今俺の目の前にいるこの男・・・。きっとこの男の存在が龍麻を大きく変えた「原因」なのだ。 ・・・俺が10年以上かけても見せてもらえなかった顔を、龍麻は半年でこの男に見せたのだ。 「クックックック・・・」 「お、おい? どうしちまった?」 突然笑いだした俺に、赤毛の男は心配そうに聞いてくる。こいつはきっと単純でお人好しなんだろう。 ・・・龍麻が惚れるわけだ。 「お前・・・、京一、っていったか・・・。」 「お、おう!! なんだてめェ、ヤルってのか?」 「・・・・・・龍麻をよろしくな・・・。」 「へッ!?」 紫の袋に入った棒のようなものを突き付け、臨戦体勢をとっていた男は、俺のセリフに、間抜けな声をあげる。 「龍麻・・・。お前、今幸せか?」 「え!? ・・・・・・うん。」 小さく頷く龍麻。俺の出る幕などなかった、そういうことか・・・。 「そうか・・・ならいいさ。お前が幸せなら、相手が男だろうがバケモンだろうが、俺は別に構わないぜ。」 俺たちは親友だろ? ここで、俺は腕時計を見る。さりげなく。 「ああ、もうこんな時間だ。龍麻、悪いけどもう新幹線の時間なんだ。また来るから、今度は連絡してくれよ。」 そのときはゆっくり話そうぜ。 そう告げると、龍麻は、今まで俺が見た中で一番の笑顔を見せる。 「うん、ありがとう。今度はちゃんと連絡するよ。」 じゃあな。 俺は二人に背を向け、駅へと足を向ける。 振り向かず手を振りながら。
こうして、今日俺は、生まれて初めて失恋をした・・・。
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『諸手上段!!』 美波:「ぐあっ!!(ダメージ74) な、何をする京一!」 『剣聖 天地無双!!!!』 美波:「ぐはぁ!!(ダメージ447) そんなぁ、そんなバカな・・・。」(バタッ) |
END