マッシュの様子がなんだかおかしい…
エドガーは、最近そう感じていた。
話しかけても、適当に返事をするだけでいつもとは全く違うマッシュがいるのだ。
しかも、たまに目が合うと辛そうな視線を返してくる。
いったい何があったのか?いったい何がマッシュを変えているのか?
エドガーには、まだそれがわからなかった…
夕食が終わりエドガーが席を立とうとすると、
「兄貴、後で話があるんだ…兄貴の部屋行ってもいいか?」
マッシュが久しぶりに自分から口を開いた。
「ああ、別にかまわないけど何かあったのか?」
エドガーがマッシュに訊く。するとマッシュは、
「ああ、ちょっとな。相談に乗ってほしいんだ…」相変わらず暗い調子だが、
「わかった、それじゃ後でな。」エドガーは、そう言うといつもと変わらない様子でバスルームへと向かうのだった。
マッシュの本当の気持ちを知らないままに…
「兄貴、入るぞ…」マッシュはノックをすると、ゆっくりと部屋に入ってくる。
しかし、部屋に入ったとたんにマッシュの目はエドガーに釘付けになってしまった。
エドガーは、まだ湯から上がってからそんなに時間がたっていないみたいで、頬をほんのりと紅く染めていた。そして、いつもは結っているハニーブロンドの髪も今はおろしていて、いつもとは違うなんだか神秘的な感じを漂わせていた。
そして、自分と同じはずの碧い目の輝きも、自分とは違う宝石のような輝きだ…
マッシュは、まるでエドガーは天使のようだと思った。そして自分の本当の心を改めて感じた。
「どうかしたのか?」エドガーがマッシュに言うと、マッシュは現実の世界に引き戻されたような感じがした。
「いや、なんでもない…」マッシュは、そう言って下を向いてしまった。
「相談が、あるんだろう?」エドガーは訊くが、マッシュはうつむいたままだ。
しばらく、沈黙が続いた…。
しかし、エドガーがマッシュの辛そうな表情に気づいて、
「マッシュ、どうかしたのか?」心配そうにエドガーがマッシュの顔を覗き込むと…!
「もうダメだよ、兄貴…ガマンできない!」
そう言って、マッシュはエドガーの柔らかい唇を強引に奪ってしまった。
エドガーはいきなりのことで、状況がすぐにのみこめなかった。
そんな間にも、マッシュの口づけはさらに深さを増していく。
最初は、触れて重ねるだけのキスだったのに、いつの間にか深いものへと変わっていく。エドガーは必死に抵抗するが、力では全くかなわない。
身長こそあまり変わらないものの、華奢なエドガーと体格の良いマッシュでは、差は歴然である。
やっと、マッシュの唇が離されてエドガーが言う。
「バカッ!何を考えてるんだっ!相談があったんじゃないのかっ!」
ゼエゼエと息を切らしながら顔を真っ赤にしてエドガーは怒鳴る。
しかしマッシュは、エドガーを腕の中に抱き込んでしまうと、耳元でささやく。
「兄貴がいけないんだ…」
「俺が…なにか、したか?」エドガーは困惑してしまう。
すると、マッシュは続けて…
「兄貴は…綺麗すぎる」そう言ってマッシュはエドガーの首筋に顔を埋めてしまう。
マッシュに甘く耳朶をかまれ首筋に舌を這わされて、エドガーは腰が抜けそうになる。
そうしてエドガーを煽りながら、マッシュは甘くささやいてくる。
「その瞳で見られたら… 誰も正気じゃいられなくなる、絶対に…」
マッシュはそんな風に言いながら、さらにエドガーをせめ立てる。
エドガーは、そんな雰囲気に流されそうになりながらも必死に言う
「だけど、俺とお前は兄弟で… 男同士じゃないか… こんな事許されない…」
するとマッシュは、エドガーをせめるのをやめてこう言う。
「だからずっと悩んでいたんだ…俺だって思った、こんな事許されないって。
何度も思った、兄貴が女性だったらこんなに苦労しないのにって…
この気持ちを忘れてしまおうとも思った。だけど、ダメなんだ、兄貴じゃなきゃ…」
少し考えてから、さらにマッシュは、何かを打ち明けるかのように言う。
「ずっと好きだった、小さい頃からずっと…そして気がついたら、兄貴以外の人を綺麗だと思えなくなってた。いつの間にか兄貴のこと好きになってた…」
そんな風に言うマッシュにエドガーは、考えてから
「でも、やっぱりいけないよ、こんなコトしたら… こんなコトしていい理由がない…」
するとマッシュは、困ったように
「どうしても、ダメか?」と、訊いてくる。
エドガーは困ってしまって、答えないでいると…
「本当は、こんなコト言いたくない。兄貴のからだだけがほしいわけじゃないから…
だけど、こうしないとあきらめきれないから…」ここで一回、言葉を切ってマッシュは、エドガーに口づける。そして、じっと目をみて…
「せめて、一晩だけでも…
兄貴の思い出を、俺に、くれないか?」
エドガーは、何も言わずにマッシュの首に腕を回した。大粒の涙を流しながら…
マッシュは、まるで何かを確かめるようにくちづけていく。
髪、目、耳、口、首…エドガーのからだ全体を、確かめるように、そして自分のモノだと、主張するように…
エドガーの漏らす吐息が、マッシュをさらに煽る
エドガーは、ただ、されるままにしている。マッシュの気が済むまでつき合うと心に決めて、マッシュの愛をからだ一杯に受けていた。
「あ…っ!」エドガーの表情が、すこし歪む。マッシュの指がエドガーの中に入ろうとしているのだ。
「だいじょうぶ?」マッシュが、エドガーに声をかける。
「だ…じょう…から、つづ…けて」エドガーがしゃくりあげながら言う。
マッシュの指が、1本、2本と増えていく。指を動かすたびにエドガーの吐息が漏れ、マッシュの気持ちが高ぶっていく。強引に身体を繋げてしまいたい衝動を必死に抑えて、エドガーが苦痛の声を漏らさないようになるまで、ゆっくりと、ほぐしていく。エドガーの快楽に飲みこまれそうな表情が、さらにマッシュを煽っていく。「そろそろ、いいかな?」そう言って指を抜こうとすると、まるで抜かないでと言うように、指をエドガーが締め付けてくる、マッシュがびっくりしたような表情をすると、エドガーは顔を真っ赤にして恥ずかしそうに顔をそむけてしまう。
マッシュは、”恥ずかしくないよ”というみたいに優しいキスをしてあげると、最上級の天使のような笑顔で応えてくれる。これが最初で最後だとわかっているから、なおさら手放したくないと思ってしまう。
「もっと、きもちいいのをあげるよ…、ひとつに…なろう?」
そう言ってマッシュは、エドガーの中にゆっくりと侵入していく、傷つけないようにそして、この感触を忘れないようにゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと…
「だい…じょ…ぶ?い…たく…ない?」欲情にかすれた声で、エドガーに訊く。
すぐに動きたい衝動を抑えて、エドガーを気遣う。
身体が一つになっても、心が離れてしまっては意味がない、たとえそれが、たった一晩の関係であっても、心の底から想った人だから、たった一人の愛しい人だから…
「好きだよ、誰にも渡したくない、本当に好きだから…」
そう言いながら、ゆっくりと腰を動かす。少しずつ動きが早くなっていって、気がついたときには、メチャクチャに腰を揺すっていた。
互いに、何度欲望を打ち放っても、おさまらなくて、まるで何かにとりつかれたように二人は、その相手を求め合っていた。まるで、もう他に何もいらないと言うように…
エドガーが目覚めたとき、隣にいるはずのマッシュの姿はなかった。
昨日の晩のことは夢だったのか?いや、違う。それはこのからだが証明している。
身体に残る心地よい疲労感と、激しすぎる愛に差し貫かれた痛み…
しかし、それを与えてくれた人は、もうここにはいなかった。
そのとき、ふと一枚の封筒のようなものが視界の中に入る。
見覚えのある字だ…まさか!
封筒を開けると、そこには一枚の便箋…
愛するエドガーへ、
- もう貴方のそばには、これ以上居れない。
俺は貴方を抱いてしまった、そしてまた抱きたくなるだろう。
俺がここにいれば、貴方はきっと不幸になる。
貴方が好きだからこそ、貴方の幸せを願い、またここを去る。
だけど、俺の気持ちは変わらない。
たとえ、どんなことがあっても、この想いは消えない。
永遠に…
目の前が、真っ暗になりそうだった。
あの腕の優しさ、あの胸のぬくもりは、もう自分のそばにはないのだ。
自分のことだけを好きだと言ってくれた声、自分を綺麗だと言ってくれた声はもう自分の耳には、決して届かないのだ。
自分のからだの中まで知っているあの人は、もうここにはいないのだ。
エドガーが、昨日の晩、自分の心の中に閉じこめていたひとことを、結局言えないままあの人は行ってしまった。
こんなにも、好きにさせておいて…
あの人は行ってしまった…
城の中は、またマッシュがどこかに行ってしまったことで、寂しくなってしまった。
しかし、今度はそれだけが原因ではない。
エドガーは、女性を全く口説かなくなって、毎日のように枕を濡らす…
独り寝の寂しさを、紛らわすかのように、毎晩毎晩涙を流す。
エドガーの身体は、最近さらに細くなり、以前のように陽気なエドガーはいない。
二人にとって、あの夜が、幸せのピークだったのかもしれない
もう、あの人に、自分の想いを打ち明けることはできないのか?
もう二度と、あの人に会えないのか?
もう二度と、あの人に抱かれることはないのか?
エドガーの寝室の、二人の少年の写真だけが、昔の二人を思い出させる…
… End …
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