暁の聖跡4

f a l l i n g h e a v e n

 


 

そこは、地上に墜ちた神々の聖跡。

 

「どこだ? ここ」

「見ればわかるよ」

「わかるって言っても枝が邪魔で……うわ……」

「わかったかい?」

「……こんなとこに、泉があったのか」

「けっこう綺麗だろう? 誓白の泉って言うんだ」

「白い誓いの泉、ね……大層な名前だな」

「実際、大層な場所らしいよ。神々が住んでいた浮遊島の一部が墜ちて、この丘が出来たって話だから」

「……ホントか?」

「さあ?」

「……さあ? じゃないだろ、普通……」

「だって、本当に真偽のほどは知らないんだよ。俺も人から聞いただけだしねえ」

「根拠もないことを、あんたがあっさり信じるとも思えないがな」

「根拠なら、ないこともないけど……」

「へえ、どんな?」

「秘畢の丘自体が、普通では説明できない状態にあるじゃないか。場所が人を選ぶなんて、そうそうあることとも思えないけどね」

「……それもそうか」

「で、丘の中でも特に空気が澄んでて、清められている場所がここさ。名前からして、沐浴にでも使われてたんじゃないかな? 身体を清めて誓いを立てるには、ちょうどいいところだよね」

「まあ、な。こんな森の奥まったところじゃ、そうそう人も通りがからないだろうし」

「……ああ、そのせいかな」

「何が?」

「昔、ここで天使を見たことがあるんだよ」

「……天使ぃ?」

「そう、天使。翼も髪も真っ白で、瞳だけが碧かったかな。俺に気づいたら、すぐに消えちゃったけどね」

「へぇ……うわ、冷たい」

「そりゃ冷たいよ、泉の水なんだから。……泳ぐのはかまわないけど、そのまま入ったら濡れるよ?」

「後で乾かせばいいだろ。ほら、レンも来いよ。そんなところで他人のフリしてないで」

「君のシャツと違って、俺のは乾きにくいんだけどなあ……」

「なら脱げよ。ほらほら、手伝ってやるから」

「……楽しそうだね、ロテール」

「あんたを脱がせるのは、いつでも楽しいからな」

「・・・・・・・」

「……天使か。このあたりから、翼が生えてるんだよな? 綺麗だったか?」

「……おや、気になる? 君も見てみたい?」

「いや……別に。俺にとっては、あんたが天使みたいなものだからな」

「……すごいこと言うね、君」

「レン相手に格好つけてたって、何も始まらないだろ」

「ずいぶんと開き直ったねぇ……」

「あんた相手に遠回しに出てたら、一生たどり着けないからな。だから……キスしてくれよ」

「……お望みのままに」

 

 

「だけど……」

「けど?」

「どっちかって言うと、あんたは天使より悪魔だよな。笑顔で犠牲者を騙して、魂を奪い取る……そのままだ」

「ふふ……本当に悪魔かもね? そうだったら、どうする?」

「何度も言っただろ。あんたが天使だろうが悪魔だろうが、レンがレンなら別にかまわない。だから……」

「だから?」

「あんたがあんたらしければ、それ以上はなにも望まない。だから、俺を置いて行かないでくれ……」

「……甘えん坊だね、君は」

 

 

そして、堕ちた天使たちの楽園。

 

 


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