そこは、地上に墜ちた神々の聖跡。 |
「どこだ? ここ」 「見ればわかるよ」 「わかるって言っても枝が邪魔で……うわ……」 「わかったかい?」 「……こんなとこに、泉があったのか」 「けっこう綺麗だろう? 誓白の泉って言うんだ」 「白い誓いの泉、ね……大層な名前だな」 「実際、大層な場所らしいよ。神々が住んでいた浮遊島の一部が墜ちて、この丘が出来たって話だから」 「……ホントか?」 「さあ?」 「……さあ? じゃないだろ、普通……」 「だって、本当に真偽のほどは知らないんだよ。俺も人から聞いただけだしねえ」 「根拠もないことを、あんたがあっさり信じるとも思えないがな」 「根拠なら、ないこともないけど……」 「へえ、どんな?」 「秘畢の丘自体が、普通では説明できない状態にあるじゃないか。場所が人を選ぶなんて、そうそうあることとも思えないけどね」 「……それもそうか」 「で、丘の中でも特に空気が澄んでて、清められている場所がここさ。名前からして、沐浴にでも使われてたんじゃないかな? 身体を清めて誓いを立てるには、ちょうどいいところだよね」 「まあ、な。こんな森の奥まったところじゃ、そうそう人も通りがからないだろうし」 「……ああ、そのせいかな」 「何が?」 「昔、ここで天使を見たことがあるんだよ」 「……天使ぃ?」 「そう、天使。翼も髪も真っ白で、瞳だけが碧かったかな。俺に気づいたら、すぐに消えちゃったけどね」 「へぇ……うわ、冷たい」 「そりゃ冷たいよ、泉の水なんだから。……泳ぐのはかまわないけど、そのまま入ったら濡れるよ?」 「後で乾かせばいいだろ。ほら、レンも来いよ。そんなところで他人のフリしてないで」 「君のシャツと違って、俺のは乾きにくいんだけどなあ……」 「なら脱げよ。ほらほら、手伝ってやるから」 「……楽しそうだね、ロテール」 「あんたを脱がせるのは、いつでも楽しいからな」 「・・・・・・・」 「……天使か。このあたりから、翼が生えてるんだよな? 綺麗だったか?」 「……おや、気になる? 君も見てみたい?」 「いや……別に。俺にとっては、あんたが天使みたいなものだからな」 「……すごいこと言うね、君」 「レン相手に格好つけてたって、何も始まらないだろ」 「ずいぶんと開き直ったねぇ……」 「あんた相手に遠回しに出てたら、一生たどり着けないからな。だから……キスしてくれよ」 「……お望みのままに」
「だけど……」 「けど?」 「どっちかって言うと、あんたは天使より悪魔だよな。笑顔で犠牲者を騙して、魂を奪い取る……そのままだ」 「ふふ……本当に悪魔かもね? そうだったら、どうする?」 「何度も言っただろ。あんたが天使だろうが悪魔だろうが、レンがレンなら別にかまわない。だから……」 「だから?」 「あんたがあんたらしければ、それ以上はなにも望まない。だから、俺を置いて行かないでくれ……」 「……甘えん坊だね、君は」 |
そして、堕ちた天使たちの楽園。 |