a Days in their Life

下 が り の 日

ひるさがり・の・にちじょう


 

 

 

 雲一つ無い青空に、夏に比べるとやや勢いのない光球がひとつ。

 冬独特の澄んだ空気を通して、ぽかぽかとあたたかい日差しが降り注ぐ。

 小春日和。

 昼食後のこの時間、心地よい眠気は誰にでも忍び寄ってくる。

 

 

「起きろっっ、京一!」

「うわっ……! な、なんだってんだァ?」

「いつまで人の膝の上でぐーすか寝てる気なんだお前はっっ!?」

「だって、ひーちゃんの膝って寝心地いいんだよ」

「足が痺れるんだよッ!」

「ひーちゃんってば冷たい……しくしく……」

「泣き真似して通用するとでも思ってんのか?」

「・・・・・思ってません」

「よしよし、少しは賢くなったな」

「……あのォ、ひーちゃん? 俺のこと、なんだと思ってる?」

「手癖の悪いペット」

「・・・・・おいこら」

「少なくとも、手癖はよくないよな」

「手癖うんぬんじゃなくてッ、そのペットってのはなんだペットってのはッ!」

「う~ん、所有権の主張」

「……へ?」

「だから、飼い主として所有権を主張してみました」

「その……飼い主うんぬんはおいとくとして、所有権の主張?」

「そ~だよ」

「・・・・・ちょっと感動しちまったぜ、俺」

「なんで」

「だって、ひーちゃんが俺の所有権を主張してんだろ? これに感動しないで何に感動しろってんだよ」

「……京一、そんなに俺のおもちゃだってことが嬉しいのか?」

「・・・・・オモチャ?」

「そ、オモチャ。からかって遊ぶには絶好のおもちゃだよな、退屈しないし」

「……ひ~ちゃん……」

「・・・・そんな情けない顔すんなよ~」

「ひーちゃんは、俺のことなんか好きでもなんでもないんだな、よ~~くわかったぜ」

「バ~カ、何言ってんだ。俺が気に入ってないもの自分のおもちゃにするかよ」

「……フォローになってるような、なってないような……」

「あ~もう、わかった、わかった。おもちゃじゃないない、おもちゃにはこんなことしないよな」

「……って、え、あ、嘘?」

「なんだよ、その鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔」

「だ、だってよ、ひーちゃんが自分からこんなトコでキスしてくるなんて、想像するか?」

「そーゆー妄想されても困るけどな」

「健全な男子校生なんだから、別におかしかね~だろ」

「……相手が女の子だったらおかしくないかもしれないけどな」

「そんな些細なことは気にすんな」

「気にしちゃいないよ、今更。でも、屋上でこれ以上は勘弁してくれ」

「なんだよ、最初に手ェ出してきたの、ひーちゃんだろ」

「お前には羞恥心ってモノがないのか~~~ッッ!?」

「ひーちゃん相手にそんな役にたたないモノ持ってても仕方ないし」

「少しくらいどっかから拾ってこいッッ!」

 

 

「あのさァ、あんたたちィ……」

「あ、あれ、やあ」

「こ、小蒔?」

「痴話喧嘩やるのは勝手なんだけどさ、やるなら場所選んでくんない? まあ、今日は葵が病欠だからいいけど、これがいつも通りだったら今頃ジハード飛んできてるよ?」

「げ、ここ、おまえらが昼飯喰うとこかッ!?」

「ここってゆ~か、その下なんだけど……屋上がよ~く見えるんだよねェ……」

「……げっ……」

「・・・・今日、美里が休みでよかったな、京一」

「なんで俺? ひーちゃん、なんで俺?」

「いっつも美里の逆鱗に触れるの、京一だろ」

 

 

「……葵も、いい加減現実を見つめればいいのにねェ……?」

 誰が見ても、こいつらはどうしようもなくラブラブなカップルなのだ。あばたもえくぼ、割れ鍋にとじ蓋、なんか今一つ違う気もするが、邪魔をするだけバカらしい。

 小蒔には葵のような同性愛に関する偏見はないので、勝手にやっててくれと思っている。ただ葵がキレたときにまず被害に遭うのは自分なので、予防策だけはきちんととっておいてほしかった。

「ま、いっか。面白いし」

 また目の前で漫才にしか聞こえない痴話喧嘩をはじめた京一と龍麻を目に、ぼそっと一言。

 しょせん、小蒔にとってはひとごとである。

 


■虚構文書■