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トントントントン・・・

みそ汁に入れる具を切っていると、後ろで京一がキッチンに入って来る気配がする。

「あ、起きたんだ京一。おはよう。」

振り向き声をかけると、寝起きの京一はどことなくぼーっとした表情で、俺を見つめている。

なんだかその視線が気になって料理のほうに集中できない。

「なんだよ、京一。朝ご飯出来たら呼ぶから、顔洗って、たまには新聞でも読んで・・・って、ちょっと!」

俺の言葉は最後まで続かない。

「な、何してるんだよ!朝っぱから!!」

「んー。ひーちゃん、可愛い。」

京一がキッチンに立っていた俺を後ろから抱きすくめたのだ。

しかも、耳朶を噛み、手で俺の体をまさぐってくる・・・。

「や・・・やめろ・・・よ、こん・・・なとこ・・・で・・・んんっ・・・朝・・・ごはんが・・・」

「俺、朝飯よりひーちゃん食べたい。」

耳へと直接入ってくる、濡れた音の混じった囁き。

「あ・・・やめっ・・・きょ・・・いち・・・ぃ・・・」

首筋を攻められ、弱いところを握られて力が入らなくなってしまった俺は、鍋からの噴きこぼれでガスの火が消えた後、安全装置が働いたのを確かめながら、京一の腕の中へと崩れ落ちて行った・・・。

 

がばっ!!

ベッドから跳ねるように飛び起きる。

「な・・・何だよ!今の夢は!?」

やけにリアルなその夢・・・どこかで聞いたことあるような陳腐なシチュエーションで、俺が・・・京一の嫁さん!?

「ウソだろ・・・。」

そりゃ、京一とは今まで何度かキスしたことがある。それ以上は・・・、殴り倒して今のところ未遂だけど。

まあ、好きなんだし、いつかは・・・と思ってはいた・・・けど・・・

こんな夢を見るほど、俺って欲求不満、なのか・・・?

 

・・・こうして、ズボンの中の、下着の湿った感触に情けなくなりながら、俺はその日の朝を迎えた・・・。

 

 

「どうした、龍麻。元気がないな。」

「ああ、おはよう雄矢。・・・ちょっと夢見が悪くってね。」

悪い・・・そうだよな。イイ夢じゃない・・・よな、あれは。

いや、気持ちよくはあったけど・・・、ってどうでもいいか、そんなことは。

「そうか。まァ、たまにはそういうこともあるさ。・・・そういうのは早く忘れる事だな。」

まだ少し心配げに俺に言う雄矢。

なんだか、こいつはいつも俺を甘やかしているような気がするな。

そんなことを考えていた時、俺の背中に突然何かが飛び乗ってくる。

「ひーちゃん、オッス!ん〜、今日も可愛いなァ〜♪」

背中の暖かみ、耳元の声。それら京一の全てが今朝の夢を思い起こさせる。

「ひゃあぁっ!!」

どんっ!

俺は思わず悲鳴を上げて、乗っ掛かっていた京一を振り落としてしまった。

「・・・ってェ・・・ひーちゃん、酷いぜ。何も振り落とさなくても・・・。」

「ご、ゴメン京一。・・・だって京一が突然乗っ掛かってくるから・・・。」

し、心臓がドキドキしてる。顔・・・赤くなってないよな。

「だ、大丈夫か?」

尻もちをついている京一をおこそうと手を差し伸べると、京一は嬉しそうな顔して手を握り締めて来た。

その手の温もり・・・。

「う、うわぁっ!!」

どんっ!

今度はその手を振り払ってしまい、京一は再び床へと尻もちをつく。

「ってェ・・・なんだよ、ひーちゃん!! ・・・ひーちゃん?」

ど、どうしよう・・・。俺・・・俺・・・

俺はそれ以上京一の顔を見ていられなくて、そのまま教室を飛び出してしまった。

 

 

俺は、廊下を走り抜け、屋上へとやって来た。

風にあたれば、少しは頭も冷える、そう思ったからだ。

壁にもたれ、座り込む。

夏も終わり、朝ともなれば微かに吹いている風も冷たくなっている。

だけど、俺の身体はそんな風では冷ませないほど熱く火照っていた。

・・・京一、きっと変なヤツだと思っただろうな・・・。

ちょっと触れただけ。それなのにその感触全てが今朝の夢へと繋がっていって・・・。

・・・ホントにどうしよう、俺。このままじゃまともに話も出来ない・・・。

スピーカーからチャイムが流れる。HRが始まったようだ。

とりあえず、1時間目はここで過ごすしかないか・・・。

ぼんやりと空を眺めながら授業をサボる事を決めた時、「ギィーッ」と軋みながら、扉が開く音がした。

「!!」

「・・・見つけたぜ・・・、ひーちゃん。・・・なんで・・・いきなり・・・逃げんだよォ・・・。」

俺を走って捜し回っていたのか、少し息を切らせて京一は俺へと近づいてくる。

に、逃げなきゃ!・・・でもどこへ・・・

狼狽えてパニックを起した俺がそう考えた時には、もうすでに京一は目の前に立っていた。

「んっ・・・んんーっ」

がしっと俺の腕を掴み、京一はいきなり乱暴に口付けてくる。

いつもなら、こんなやり方は絶対許さない。すぐに俺の拳が飛んでいるはずだ。

・・・なのに触れられた瞬間、頭の奥が痺れて、動けなくなる。

俺が抵抗していないのが分かったのか、京一の動きはどんどんと大胆になっていく。

唇は俺の舌を絡めたまま、左手をそっと首筋へと当てる。

そっと触れられただけでも、俺の身体は自分では制御できないくらいに跳ね上がる。

そして右手は、はだけたシャツの隙間から手を差し入れ、撫でさすった。

「はっ・・・あ・・・ん・・・んんっ」

やっと離してもらえた俺の口からは、たったそれだけのことなのに、恥ずかしいくらいの喘ぎ声が溢れてくる。

「・・・ひーちゃん・・・可愛い・・・。」

うっとりと耳元へ口を近づけ囁く京一は、そのまま耳朶にぱくっと噛み付く。

今朝の夢とまったく同じその感触に、俺の背中に電流が走り抜ける。

頭では逃げたいと思っているのに、身体は快感を追いかけるのに必死になってまったく動いてくれない。

「はあ・・・っ!」

ひときわ高くなる俺の声。京一がズボンの上から、俺の股間を軽く握ったのだ。

そのまま京一の手は、俺のズボンのベルトを緩め、くつろげたその隙間から手を差入れてくる。

「あぅ!!」

・・・初めて感じた、直接触れられる感触・・・。

どうしようもなく恥ずかしいのに、もっと触れてほしい。もっと感じたい。

その時の俺の頭の中には、もうその二つだけしかなかった。

俺のそんな考えがわかったわけではないだろうけど、京一の手はゆっくりと揉み扱きだす。

「あ・・・ん・・・んん・・・あん・・・はぁ・・・」

閉じる事を忘れたような俺の口からは、切ない、そしてもどかしいような喘ぎだけしか出てこない。

・・・京一はといえば、そんな俺の痴態を嬉しそうな顔をしてじっと見つめている。

京一のその眼差しは、俺の身体をさらに熱く燃え立たせた。

「このままじゃ、下着が汚れちまうな・・・。」

京一はそう呟くと俺のズボンを下着ごと、膝の辺りまでずり下げる。

青空の下に晒された俺の股間。

そんな自分の姿を想像した俺は、恥ずかしさに気が遠くなる。

だけど、それも一瞬。すぐに京一の手によって、俺の股間は上下に扱き出され、頭の中が真っ白になっていく。

「あぁ・・・い・・・イヤ・・・んっ・・・・やめっ・・・」

今まで感じたことのない程の強烈な快感。

・・・いや、違う。感じたことはあった、今朝の夢の中で。

こんな明るい場所で京一に翻弄されている自分はまるで白昼夢を見ているかの様。

もしかしたら、今朝の夢が真実で、今の俺こそが夢の中なのだろうか。・・・だけど、

「ひーちゃん・・・好きだ・・・。」

京一から、再び頭が痺れるような口づけを受けた後、そっと囁かれたその言葉に、もう俺はどちらが夢でも構わなくなっていた。

・・・今の俺には、俺を抱き締めるこの腕こそが真実なのだから・・・。

「あ・・・も・・・ダメ・・・でる・・・っ」

次第に激しくなる手の動きに追い上げられた俺は、ついに京一に限界を告げる。

なのに、その時京一の手は突然動きを止めた。

「あっ・・・イヤ・・・きょういちぃ・・・」

絶頂を妨げられた俺の身体の中で、快感が出口を求め、荒れ狂う。

思わずあげてしまったその声は、自分でも信じられないくらい、甘えるような響きを含んでいた。

「・・・何で逃げたんだよ・・・。」

え?

「俺の手、振り払ったり、突然逃げ出したり・・・何でなんだよ・・・。」

じっと俺を見つめる京一の真剣な眼差し。

「教えてくれなきゃ、イカせてやらねェぞ。」

「なっ!!」

なんだって!!

そ、そんな恥ずかしいこと、言える訳ない!!(当然、今されていることとどちらの方が恥ずかしいか、なんて考える余裕はなかった)

だけど、もう俺の身体は限界ギリギリで、あとちょっとの刺激を求めて揺れ蠢く。

なかなか口を割らない俺に痺れを切らしたのか、京一は左手で俺の股間の根元をキツく握り締め、右手で強烈な勢いで扱き出した。

「あぅ!・・・は・・・なして・・・きょ・・・いち・・・」

もう、意識を保っているのが精一杯で、俺はとうとう観念してしまった。

「言・・・う・・・言うか・・・ら・・・あんっ・・・」

手の動きを止め、同じ質問を繰り返す。

「・・・で?何でだよ。」

「今朝・・・夢・・・見た・・・んだ・・・京一の・・・出て来る・・・夢。」

俺は、荒い息を継ぎながら、仕方なしに答え出す。

「俺が?・・・んで、それが逃げ出すことと、どう関係あんだよ。」

納得いかない様子で、さらに俺を問い詰める京一。

だけど、次の瞬間、京一の顔付きが変る。複雑な表情へと・・・。

「待てよ・・・、俺が出て来る夢?・・・ひょっとして・・・ひーちゃん、その夢の中で、俺とこういうことしてたって事か?」

再び手が動く。

「い・・・イヤ・・・ダメ・・・っ」

「フーン・・・。それで俺に触られたらその時のコト思い出しちまったって事か・・・。」

何?京一・・・怒って・・・る?

「いいよなァー、夢の中の俺。ひーちゃんといっぱいえっちなことしてんだ。俺にはすぐ拳お見舞いしてくるのに。」

「バッ・・・バカ・・・ヤロウ・・・」

ふぅ、とため息を一つついたあと、京一は手の動きを再開させる。

「んっ・・・あんんっ・・・」

「ま、約束だしな。イっていいぜ、ひーちゃん。」

「はぁ・・・んんっ!!」

・・・そうして、解放された俺の股間は、京一の手によってあっという間に昇りつめ、宙へと白濁した液を飛び散らせた・・・。

 

 

「・・・ホントに来るつもりなのか?」

「なんだよォ、約束だろ?」

あの後、京一はぐったりとなった俺の後始末済ませた後、俺の耳元で囁いたのだ。

『今日の帰り、ひーちゃん家に行ってイイか?』

イイと言わなきゃ、その場で続きを始めそうだった京一に対して、俺は頷くしかなかった。

・・・ま、来たければ別に来るくらいいいけどさ。

来るくらい・・・はね。

 

 

・・・その日、溜まっていた欲求を、屋上で全て晴らしてしまった龍麻によって、京一の顔面に痣が付けられたのは・・・言うまでもなかったりして・・・

 

 

教訓:喰えるものは喰える時に全部喰っとけ!(笑)

 


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