雪が舞う・・・。
ビルを、緑を白く染めて行く・・・。
雪は好きだ。舞い落ちる白い花びらのようで。
それは、闇に生きる僕にほんの少しだけ与えられた光。
人の流れは、みな一様に足早だ。家路へと急いで行く。
誰も僕に気を留めない。
誰も僕を見ない。
こんなとき、僕は世界で唯一人となる。
僕は公園へと足を向ける。
こんな日は誰もいないから。
この雪を独り占めできるから。
だけど、公園でその時僕の目に入ったのは・・・
天使。
白い翼の天使。
空から舞い降りる雪をぼんやりと見上げる姿。
どんな名画にも劣らないその美しさ。
僕は動けなくなる。
捕われる。
永遠のような時間が過ぎる頃、天使は僕を見止める。
僕の名を呼ぶ。
「紅葉」 と---。
「僕の育った所じゃ、あんまり雪が降らないんだ。だからなんだか嬉しくてね。」
僕の天使、緋勇龍麻は微笑む。
「でも、ここで紅葉にあえるなんて。もっともっと嬉しいな。」
君の髪に、肩に雪は舞い降りる。
まるで君を祝福する天からの贈り物の様。
だから僕は君から目を背ける。
僕には、君の視線は眩し過ぎるから。
闇に生きる僕には。
「紅葉?」
訝る君に、僕は告げる。
君の背中の白い羽。
君を僕の闇で穢したくないから。
---僕は人に死を呼ぶ、死神。
---君は大地を守護する、天使。
だからこれ以上僕には近づいてはいけないと。
だけど君は笑う。
「死神と天使、人に死を告げるために現れることには、かわりないだろう?」
「アズラエルって知ってる?紅葉。」
君は僕に問いかける。
「アズラエルは人に死を知らせる天使なんだ。」
告死天使。闇を翔ける漆黒の翼。
「僕が天使だとしたら、僕に翼があるとしたら、きっと黒い翼の天使なんだよ。」
「それに・・・。」
それに?
「僕にも、紅葉の背中に翼が見えるよ。」
---真紅の翼が。
君は言う。
僕らは2対の翼を持った4枚羽の天使なのだと。
漆黒と真紅の翼を持つ、闇の天使、だと。
「紅葉・・・。」
ふと、天使は呟く。
「もし、僕が僕でなくなったら、その時は・・・。」
まっすぐな視線。吸い込まれそうな瞳。
「---君が僕を殺してくれ。」
静かに時は流れる。
僕と君の間に。
僕の愛しい天使。
僕は君を、そっと抱きしめる。
髪に、頬に口づけを落とす。
僕は君の問いに答える代わりに告げよう。
どんなことがあっても、君を一人では逝かせない。
「誰よりも愛しているから」と---。
雪は降り積もる。
街に、緑に---
そして一つになった僕達二人の上に---
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